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2010年12月15日

海老蔵もエリカも、叩かれて一人前になる。



海老蔵もエリカも、叩かれて一人前になる。
introduing 「ある映画監督の生涯」「西鶴一代女」「サンダカン八番娼館・望郷」

事件の真相なんて興味ないけれど、顔まで殴られ全治2ヶ月の怪我を負った十一代目市川海老蔵の、俳優としての将来が楽しみだ。
チンピラからボコボコにされた上、各方面から叩かれ、興行主の松竹から無期限自粛処分を受けたが、どっこい復活するにちがいない。
失敗作と言える「出口のない海」しか映画出演がないので、米アカデミー賞作品賞、主演男優賞を受賞した「失われた週末」の日本版リメイクはどうだろうか。
アル中の作家を熱演したレイ・ミランドは凄まじいものがあった。
  (注釈1)

何を考えているか興味ないけれど、何かとお騒がせな沢尻エリカも密かに期待をしている。僕にとって彼女は魅力的な映画女優以外の何者でもないからだ。
今のところ、彼女の最高傑作は「パッチギ!」だが、意外と観ている人が少ない。かなり原作を脚色しているとは言え、毎回僕も涙したTVドラマの「1リットルの涙」を観た人の方が多いにちがいない。
  (注釈2)

こんばんは、マンハッタン坂本です。

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往年の大女優、田中絹代ですら叩かれた時期があった。かつて日米親善使節として帰国した際、アメリカかぶれだと世間から猛反発を喰らい、スランプに陥ったのだ。
しかしながら、彼女を敬愛する溝口健二監督の「西鶴一代女」に主演し、女優として完全に復活した。

1956年、溝口健二監督は58歳の若さで永眠した。
仕事に関わった人たちへのインタビューで構成した「ある映画監督の生涯」の中で、監督でありインタビュアーである新藤兼人は、田中絹代にこう質問した。溝口さんは田中さんを生涯の恋人だと思ってたんじゃないですか、と。
それに対し彼女は「いいチャンスにお答えができますね」と前置きして明言した。

「あたくしと先生は、スクリーンの上の夫婦ですね。絶対的な夫婦ですね」

また、ヴェネチア国際映画祭に同行した際、賞をとりたい一心の溝口監督にこう言われたという。

「ゴッホは狂った、芸術のために。だから一人前の人間になるには、狂わなきゃダメだ」
  (注釈3)

結局「西鶴一代女」は、ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞する。




「女は真実の想いに結ばれて生きてこそ、幸せでございます」

御所勤めのお春(田中絹代)に恋文を出した公卿の奉公人・勝之介(三船敏郎)は、身分違いを乗り越えて彼女を口説き落とす。
お春は、一瞬幸せを手に入れるが、それがきっかけで不運が当たり前のように降りかかってくる。

不義密通のかどで両親と共に洛外追放となり、勝之介が首を斬られる。
世継ぎができぬ松平家の殿様の微細にわたる好みを満たす側室に選ばれ、無事男児を出産するが、即座に暇を出される。
娘の出世を担保にした父親の借金を返すため、島原の廓に身売りされる。
越後から来た成金男に身請けされるが、その直後に贋金がバレ、男が目の前でお縄となる。

松平家にお春を世話した笹屋嘉兵衛(進藤栄太郎)のもと女中奉公をするが、妻のお和佐(沢村貞子)に前身を誤解され、放り出される。
何もかも承知で嫁に迎えた勤勉な弥吉(宇野重吉)が新婚早々物盗りに殺される。
出家する覚悟で寺に身を寄せるが、そこも放り出される。笹屋の番頭が調達した店の着物を着ていたからだ。仕方なく駆け落ちをするが、番頭が捕まり連れ去られる。
籠に乗ったわが子の姿を見てさめざめと涙を流したお春は、ついに化け猫呼ばりされる街娼にまで身を落とす。

彼女の元に母親が尋ねて来る。わが子が松平家の殿様になったからだ。
生みの母として謁見は許されたものの、またしても前身が災いし、幸せから見放される。
  (注釈4)



僕が初めて観た田中絹代の映画は、「サンダカン八番娼館 望郷」である。ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞したからだ。

アジア女性史研究の一環として、幕末から始まった海外売春婦、いわゆる「からゆきさん」のことを調べるため、三谷圭子(栗原小巻)が天草にやって来る。そして偶然食堂で知り合ったおサキ婆さん(田中絹代)の家までついて行く。

障子や襖は破れ放題、腹をすかせた捨て猫が徘徊する擦り切れた畳には虫がうごめく。とても人間の住まいとは言えない。だが彼女はおサキに言われるままに昼寝をしていく。寄りつかない息子の嫁だと、とっさに村人に紹介されたからだ。
圭子は、おサキ婆さんの優しい人柄に魅かれ、皺に刻まれた波乱の過去を知りたくなる。

「男というもんは、悪かもんぞ」

一ヵ月後、再び訪れた圭子と寝食を共にするうちに、おサキ婆さんがぽつりと口にする。

ボルネオのサンダカン八番に売られて行った経緯、抵抗むなしく店に出された顛末、女郎としての毎日、家業の破産で出稼ぎに来た日本人青年との淡い恋、女領事と言われたお菊の遺言に背いて帰国し厄介者扱いされた絶望、長続きしなかった満州国での結婚。
知られざる「からゆきさん」の実態が明らかになる。

「美しか、美しか、まるで御殿のごたる」

障子と襖を張り替え、畳の上に真新しいゴザを敷く。明るくなった部屋の中で、おサキ婆さんは幼子のようにはしゃぐ。

圭子の素性と目的が知れた。3週間の滞在に見切りをつけるときだ。
おサキは、銭の代わりに手ぬぐいが欲しいと言う。使うたんびにお前のことば思い出せるけんな、と。そして声を上げて涙を流す。

ボルネオに渡った圭子は、ジャングルの中で、日本に背を向けた女郎たちの墓を発見する。
  (注釈5)



この映画を見たとき、僕は19歳だった。田中絹代はすでに65歳で、嬉しいことに役名が佐世保生まれの実の祖母と同じだった。ほぼ同世代である。


カート・ヴォネガット流に人工的拡大家族を作るなら、映画製作に携わる人たちは皆家族だと思う。僕は未だに宣伝なので、せいぜい遠縁ってところだ。
もしその映画ファミリーに混ぜてもらえるなら、僕には多くの魅力的な祖父母や両親や兄弟姉妹や子供や孫ができる。
さしずめお気に入りのおばあちゃんは田中絹代さんで、アメリカのおじさんはウディ・アレン。自慢の娘は蒼井優で、不祥の娘が沢尻エリカだ。あとは、あまりに多すぎてキリがない。


田中絹代の遺作は、倉本聡脚本のTVドラマ「前略おふくろ様」である。
1977年、最終回が放映される直前に彼女は67歳で亡くなった。その年に十一代目市川海老蔵が生まれ、9年後に沢尻エリカが生まれる。

田中絹代は生涯結婚しなかったが、昨今の女優は離婚したあといい仕事を残す人が多い。
  (注釈6)



舞台やTVから締め出されようと、映画ファミリーは寛容だ。
前科者だろうと、狂信者だろうと、酒癖が悪かろうと、いい仕事のできる俳優はウェルカムである。





注釈1、「失われた週末」(監督:ビリー・ワイルダー)
アメリカ映画 1945年製作 原題:The Lost Weekend
米アカデミー賞作品賞、主演男優賞、監督賞、脚色賞受賞
失われた週末 [DVD] FRT-139 / フランク・フェイレン/ドリス・ダウリング/レイ・ミランド/フィリップ・テリー/ジェーン・ワイマン (出演); ビリー・ワイルダー (監督)

 メーカー:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
 メディア:DVD






注釈2、「1リットルの涙」(TVドラマ)
2005年10月〜12月 フジテレビ放映
1リットルの涙 DVD-BOX / 沢尻エリカ, 薬師丸ひろ子, 錦戸亮, 成海璃子, 真田佑馬 (出演); 木藤亜也 (原著); 江頭美智留, 大島里美, 横田理恵 (脚本)


 メーカー:ポニーキャニオン
 メディア:DVD





注釈3、「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」(監督:新藤兼人)
日本映画 1975年製作 
英題:Kenji Mizoguchi:The Life of a Film Director
キネマ旬報ベストテン第一位 監督賞受賞
毎日映画コンクール監督賞受賞
ある映画監督の生涯 [DVD] / 入江たか子, 田中絹代, 京マチ子, 永田雅一 (出演); 新藤兼人 (監督)



 メーカー:角川映画
 メディア:DVD




注釈4、「西鶴一代女」(監督:溝口健二)
日本映画 1952年製作 英題:Life of Oharu
原作:井原西鶴「好色一代女」
ヴェネチア国際映画祭国際賞、監督賞受賞
西鶴一代女 [DVD] / 田中絹代, 山根寿子, 三船敏郎, 宇野重吉, 菅井一郎 (出演); 井原西鶴 (原著); 依田義賢 (脚本); 溝口健二 (監督)


 メーカー:東宝
 メディア:DVD





注釈5、「サンダカン八番娼館 望郷」(監督:熊井啓)
日本映画 1974年製作 英題:Sandakan8
原作:山崎朋子
ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(田中絹代)受賞
キネマ旬報ベストテン第1位
サンダカン八番娼館 望郷


 メーカー:東宝
 メディア:DVD








注釈6、「前略おふくろ様」(TVドラマ)
(第1部)1975年10月〜1976年4月
(第2部)1976年10月〜1977年4月 日本テレビ放映
前略おふくろ様II DVD-BOX / 萩原健一, 桃井かおり, 坂口良子, 木之内みどり, 梅宮辰夫 (出演); 倉本聰 (脚本)


 メーカー:バップ
 メディア:Blu-ray




   
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posted by マンハッタン坂本 at 22:25 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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