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2011年01月23日

エロス+マクドナルド

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(追悼、細川俊之さん) エロス+マクドナルド
                       introducing 「エロス+虐殺」「ラヂオの時間」

ブリタニカ国際大百科事典によると、アナーキズムとは「一切の権威、特に国家の権威を否定して、諸個人の自由を重視し、その自由な諸個人の合意のみを基礎とする社会を目指そうとする政治思想。無政府主義と訳されることが多い。」とある。
そんな思想を持った人をアナーキストと呼ぶ。

セックス・ピストルズが「アナーキー・イン・ザ・UK」でメジャー・デビューしたせいか、初期のパンク・ロック・ムーブメントがアナーキズムの代名詞のようなイメージを持たれている。ヒップホップもそんな傾向があった。
だが実体は反体制的なポーズをしたファッションで、ほとんど無政府主義とは無縁だ。

同様に、映画における細川俊之は、アナーキスト的なイメージがただよう。

こんばんは、マンハッタン坂本です。


もちろん彼も無政府主義とは無縁である。
ただ、あのセクシーな低音と黒子から連想する好き者的、元い! 自由恋愛を提唱し実践したアナーキスト的クールさが魅力だ。
僕のように下世話なイメージで起用したわけではないが、映画監督の吉田喜重は、実在のアナーキストである大杉栄を細川俊之に重ね合わせた。


大正5年(1916年)、伊藤野枝(岡田茉莉子)との出会いによって、独りの革命家が甦る。
口髭をたくわえ、あご鬚をもみあげまで伸ばした洋風の顔立ちをした大杉栄(細川俊之)は、りんとして和服に身を包んだ野枝と満開の桜並木を歩く。歩きながら、羽をもがれたアヒルと同じ、ガァガァ言ってるだけですよ、と自分を茶化してみせる。

「元始女性は太陽であった」で創刊した文芸誌「青鞜(せいとう)」の編集長を平塚らいてうから引き継いだ彼女は、女性解放運動を推し進めていた。無政府主義が鮮明になるにつれて同志から反発を招いた彼にとって、魅力的な女性にほかならない。

「一つ、お互いに経済上、独立を保つ。
 二つ、おのおの別居の生活をおくる。
 三つ、お互いの自由を尊重する。むろん性の自由も含まれる。」


三つの条件さえ守れば三人ともうまくやっていける、と大杉は言う。
三人とは、妻の堀保子と伊藤野枝と、目の前にいる婦人記者・正岡逸子(楠侑子)である。彼女たちを公平平等に愛せる自信があるからだ。

やがて逸子が降りる。破綻すべきものは破綻すべくして破綻した、とあっさり大杉は認める。すると彼女は彼の首筋に短刀を食い込ませる。

部屋を四つに仕切った襖が一つまた一つ倒れていく。奥の部屋の襖がすべて倒れると、大の字にうつ伏せになった大杉がいる。 (幻想)

葉山日陰茶屋に戻った野枝が、もみ合う二人を目撃する。私の大杉は死んだ、と逸子は言う。代わりに野枝が大杉を刺す。

1923年、甘粕正彦率いる憲兵隊によって逮捕された大杉は、野枝と共に絞殺される。
  (注釈1)



これまた僕の独断であるが、監督の三谷幸喜は、ラジオ局を無政府状態にしたかったのではなかろうか。


深夜12時から生放送されるラジオ・ドラマ「運命の女」のリハーサルがいい感じで終わろうとしている。陳腐なハッピーエンドながら、ヒロイン律子役の千本のっこ(戸田恵子)と彼女の恋人を演じる寅造役の浜村(細川俊之)が無難にかけ合いを終える。

その直後、のっこのマネージャーが控え室から内線で役名を変えてくれと言ってくる。
ドラマのプロデューサー牛島(西村雅彦)とマネージャーとの間で話がつくはずが、作家の鈴木みやこ(鈴木京香)や編成部長の堀ノ内(布施明)まで巻き込み、いつの間にかパチンコ屋の店員・律子がニューヨークの女弁護士メアリー・ジェーンに変身する。
流石にベテランの浜村も黙っていられない。僕も外人にしてくれないなら降りると言い出す。いつの間にか出演者全員が外人となり、舞台もシカゴに移る。

いよいよ浜村の出番が来る。だが構成作家が手を入れ二転三転した台本にない台詞を吐く。

「僕の名前は、ドナルド・マクドナルド。パイロットだよ」

その一言で、さらにドラマの混乱が加速する。
ドナルドは、ハワイ上空で消息不明となる。ただの飛行機のパイロットが宇宙飛行士に変身する。スポンサーの怒りを静めるためだ。

どうやって地球に戻ってくるんだ!
そのまま戻ってこなくていい、とのっこは言う。荒野に独り佇み、明日は明日の風が吹く。まるで「風と共に去りぬ」のスカーレット気分だ。

ディレクターの工藤(唐沢寿明)が牛島と対立し、スタジオから追い出される。だがこのままでは作家先生が可哀相だ。ミキサーの辰巳(田口浩正)に牛島を拘束させ、舞い戻って再びキューを出す。
効果マンの大田黒(梶原善)は、ラジオ局の階段を横足で駆け下りる浜村を連れ戻す。

ひとり佇むメアリー・ジェーンのもと、ロケットにまたがったドナルドが飛来する。
必死の抵抗もむなしく、浜村がマイクの前で無理やりカン高い声で叫ぶ――「メアリー・ジェーン!」
のっこも観念する――「おかえりなさい」
いつの間にか台本通り、ハッピーエンドが再現される。

二人の再会を祝福するかのように花火が打ち上げられる。録音された効果音ではない。もと効果マンの守衛(藤村俊二)が五十円玉を口にくわえて打ち上げられる花火の音を出し、台本を頭に叩きつけて爆発音を出し、体を揺らしてその余韻を醸し出す。

終わり良ければすべて良し。スタッフ、キャストは一様にクレジットのナレーションを満足気に聞く。

スタジオの中の無政府主義者はメアリー・ジェーンではない。彼女は単なる我がままな言い出しっぺだ。
ドナルド・マクドナルドこそアナーキストだった。
  (注釈2)



男女の区別なく、僕は低い声が好きだ。
録音された自分の声を聴くと、自己嫌悪に陥る。自分の耳で聴いた声より遥かにカン高いからだ。
「ラジオ・デイズ」のミア・ファーローのように訓練すれば低くなるかもしれない。
強い酒を飲めば、声が低くなったような気がする。

細川俊之さんが羨ましかった。ご冥福をお祈りします。





注釈1、「エロス+虐殺」(監督、脚本:吉田喜重)
      日本映画 1969年製作 英題:Eros+massacre
      音楽:一柳慧

      メーカー:ジェネオン・エンタテインメント
      メディア:DVD

注釈2、「ラヂオの時間」(監督、脚本:三谷幸喜)
      日本映画 1997年 英題:Welcome Back Mr.McDonald
      日本アカデミー賞最優秀助演男優賞(西村雅彦)
                最優秀脚本賞、録音賞受賞

      メーカー:東宝
      メディア:DVD

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posted by マンハッタン坂本 at 14:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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