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2014年08月18日

1919年、J・D・サリンジャー氏は、マンハッタンで生まれた。

Day 033/365 - Salinger
Day 033/365 - Salinger / contemplicity


柄にもなく、文学してます。 PARTV

1919年、J・D・サリンジャー氏は、マンハッタンで生まれた。
introducing 「赤頭巾ちゃん気をつけて」「恋する女たち」

この年、チャーリー・チャップリンは、アメリカ映画の父と呼ばれるD・W・グリフィス監督らと共に、ユナイテッド・アーティスツを設立する。そして4年後に初期の代表作「巴里の女性」を発表する。
のちに赤狩りの影響でアメリカを追放された彼は、以後主演映画を1本しか製作しなかった。

初期のJ・D・サリンジャーの作品には、映画の題名や俳優の名前が出てくる。
だが映画が発明されて以来、彼ほど映画を憎んだアメリカの作家はいない。

ハイホー、マンハッタン坂本です。

僕がもっとも尊敬する短編小説家であるサリンジャーが映画を憎んだ原因は、彼の代表作である「ナイン・ストーリーズ」をもとに製作された映画がひどい出来だったからである。
  (注釈1)
のちに世界的なベストセラーとなる長編小説「ライ麦畑でつかまえて」の中で、主人公のホールデンは、兄で作家のD・Bがハリウッドに身売りしたことを糾弾している。
  (注釈2)


短編小説の大半を発表したニューヨーカー誌の常連だったジョン・アップダイクは、彼の作品の魅力を端的にこう表現している――「出来事といえばまったく内面的であり、行為といえば<語る>こと以外にないのに、これほど豊かな言葉をあえて使おうとしている作家は、ジェームス・ジョイス以外ほとんどいない」

サリンジャー氏が亡くなったからといって、「ライ麦畑でつかまえて」が映画化されることはあり得ない。しかしながら、世界中のファンが彼や彼の作品に対するリスペクトをあらゆるスタイルで表現するだろう。
と言うか、すでに多くの映画人が自分の作品の中に取り込んでいる。「赤頭巾ちゃん気をつけて」なんてちょっと相当に「ライ麦畑でつかまえて」に対するオマージュではないかと思う。



東大受験を目指していた高校3年生の薫(岡田裕介)は、朝から踏んだり蹴ったりである。全共闘・安田講堂立てこもり事件の影響で大学入試が中止になる。愛犬のドンが死ぬ。その知らせの直後、左足の親指の爪を剥がす。
おまけに、電話口でうっかり発した些細な言葉が癇にさわり幼なじみから絶交を言い渡される。舌かんで死んじゃいたいわ、と。

普段、同級生からいやったらしいお行儀のいい優等生と言われている薫は、その日一日自分の不運と優柔不断さと不甲斐なさを悩み続ける。

銀座の人ごみの中でボーッとしていると、左足に激痛が走る。電柱によりかかると、5歳くらいの女の子が心配そうに見ている――「あたし、とっても急いでいたの」
それがきっかけで女の子と仲良くなった薫は、一緒に本屋へ行き、彼女のために一番いい「赤ずきんちゃん」を選んでやる。選んでいるうちに、なんとなく自信がわいてくる。

「ママはすごく叱るかな?」
「平気なの。ママはおしゃべりが好きなの」


女の子を見送りながら薫は、「気をつけて!」と叫ぶ。
  (注釈3)
赤頭巾ちゃん気をつけて.jpg


サリンジャーの信条である「イノセンスに対するひたむきな憧れ」を連想させるシーンだ。
だが二人の会話の一部始終は、「バナナフィッシュにうってつけの日」のシーモア・グラースとシビルに近い。

やはり真骨頂は、「ライ麦畑でつかまえて」で、ホールデンの妹フィービーが登場するくだりである。
 

「子供ってものは、かりに金色の輪なら輪を摑もうとしたときには、それをやらせておくより仕方なくて、なんにも言っちゃいけないんだ。落ちるときには落ちるんだけど、なんか言っちゃいけないんだよ。
回転がとまると、彼女は木馬をおりて、僕のとこへやって来た。『今度は、いっぺん、兄さんも乗って』と、彼女は言った。
『いや、僕はただ、君を見ててあげるよ。僕は見てるだけでいいんだ』」


高校2年生の多佳子(斉藤由貴)は、授業をサボって茶道部の部室に寝転がり、声に出して小説を読んでいる。

大人のインチキを告発するホールデンと違って彼女の悩みは、「恋する女たち」の行く末である。学校一の美少女・緑子(高井麻巳子)は、失恋の反動でディスコで踊りまくり男を渡り歩いている。短歌好きの汀子(相楽ハル子)は、もと人気作詞家の中年男にぞっこんである。

自分はといえば、美術部の絹子(小林聡美)から指摘されつつ、年下の神崎から告白された途端、クラスメートで野球部の勝(柳葉敏郎)に片想いをしていることに気づく。
そして偶然美術館で出会った勝から恋の悩みを聞かされた挙句、置屋のやり手ババアみたいで言いやすかったと感謝される始末。

結局三人とも条件なしの恋は成就できず、少女をなめんなよ!と汀子が叫ぶだけだった。
  (注釈4)



17歳までまともに酒を飲んだことのない少年だった僕は、「ナイン・ストーリーズ」に出てくるマティーニがどんな酒なのか知らなかった。

「コネティカットのひょこひょこおじさん」では、人妻のエロイーズが大学時代のルームメート相手に終始ハイボールを飲んでいた。そして昔つき合っていたGIの想い出話をする。
ウォルト・グラースは愉快な男で、こんなことを言う――「自分の制服を誇りに思わんような人間には我慢ならん」


敬愛するJ・D・サリンジャー氏は、最後のインタビューでこう語っている――「作品を出版しないでいれば平和な日々だ。私は書くことが好きで、今も自分の喜びのために書いている」
だが2010年に老衰で亡くなり、遺言に従って未発表作品のうち少なくとも5作品が2015年に刊行される見込みだという。

サリンジャーが書いた言葉の曲芸飛行とも言える都会的で洒落た会話は、多くの映画人に影響を与えたに違いない。
恐れ多くも、僕は彼の作品をパロった記事を3本も書いてしまった。

クリスマスって、イエス・キリストの誕生日じゃないの?
 (「エズミに捧ぐ――愛と汚辱のうちに」のパロディ)
ドジョウは金魚の真似なんかできない。
 (「バナナフィッシュにうってつけの日」のパロディ)
革命児と呼んでくれ!
 (「ライ麦畑でつかまえて」のパロディ)


ドキュメンタリー映画「SALINGER」



注釈1、「ナイン・ストーリーズ」(著者:J・D・サリンジャー)     
      1953年出版 原題:Nine Stories
      訳者:野崎孝

      出版社:新潮社
      メディア:文庫本

注釈2、「ライ麦畑でつかまえて」(著者:J・D・サリンジャー)     
      1951年出版 原題:The Catcher in the Rye
      訳者:野崎孝

      出版社:白水社
      メディア:単行本

注釈3、「赤頭巾ちゃん気をつけて」(監督:森谷司郎)
      日本映画 1970年製作
      原作:庄司薫(芥川賞受賞)

      メーカー:東宝
      メディア:DVD

注釈4、「恋する女たち」(監督:大森一樹)     
      日本映画 1986年製作
      文化庁優秀映画賞受賞
      原作:氷室冴子

      メーカー:東宝
      メディア:DVD
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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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