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2011年03月05日

優れた文学があっても、それから優れた映画が生まれるとは限らない。

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優れた文学があっても、それから優れた映画が生まれるとは限らない。
introducing 「墨東綺譚」「細雪」「ヴィヨンの妻」

読書の苦手な者にとって、てっとり早く文学を観れるのはありがたい。
ただ、どんな経緯で生み出された文学であれ、優れた作品であればある程、映画化は困難を極める。
その時々で人気の俳優を使い、安易に映画化された作品に期待はできない。優れた文学から名作と言われる映画が生まれるのは稀だからだ。

かつて永井荷風を師と仰ぐ谷崎潤一郎は、終戦直前の疎開先で荷風をスキ焼きと清酒でもてなしたという。そのとき、荷風は書きためていた「踊り子」などの原稿を谷崎に託した。その頃谷崎も、発表のあてのない「細雪」を書き続けていた。
耽美主義の双璧と言われた二人は、戦争賛美を拒否し自らの文学を貫き通した。

こんばんは、マンハッタン坂本です。

「濹東綺譚」は、第二次世界大戦直前に発表された。

新しい一人住まいである偏奇館で「断腸亭日記」を綴る永井荷風(津川雅彦)のもと、久々に母親(杉村春子)が訪ねて来る。

「僕の文学と僕の女は一体なんです」
「お母様、僕は理想の女に出会いたいんです」


五十過ぎてもなおそんなことを言う息子に対し、母親は笑ってやり過ごす。
それもそのはず、二度も離婚し、商売女も恋人も次々に渡り歩き、毎夜カフェや待合に出没する放蕩無頼と新聞や雑誌で罵倒されていることを承知しているからだ。

ある日、たまたま乗ったバスで初めて訪れた濹東玉の井で、荷風は娼婦のお雪(墨田ユキ)と知り合う。傘に入れてくれと言われただけで、ことさら客引きをされたわけではない。むしろそのあっさりしたもの言いが気に入ったからだ。
気立てもいいし床上手だし、エロ写真屋と思い込んでいるので、足繁く通うようになる。
 
商売女とも恋人とも言えない触れ合いから、お雪の屈託ない色気が漂ってくる。

だが嫁にしてくれとせがまれ、流石の荷風も身を引く。
  (注釈1)


「細雪」は、終戦から三年後に完成した。

昭和十三年、桜が満開になる頃、船場の旧家・薪岡家の四姉妹が美食を前にして一堂に会する。分家の次女・幸子(佐久間良子)、三女の雪子(吉永小百合)、四女の妙子(古手川裕子)、遅れて来た本家の長女・鶴子(岸恵子)である。
上等の着物を着て桜並木を歩く四姉妹には、幸子の養子・貞之助(石坂浩二)がついて来るのみだ。

薪岡家の目下の悩みは、5年前の新聞沙汰で大阪の本家を出て芦屋の分家に居候している雪子の嫁ぎ先が決まらないこと、人形作りに精を出す妙子の派手な男関係である。
姉の鶴子と幸子は、薪岡家の誇りにかけて縁談をまとめようと何度も見合いの場を設けるが、なかなかその気にならない雪子にいらいらさせられる。
密かに彼女を慕う貞之助だけが安堵の笑みを浮かべる。

「あの人、ねばらはったなあ」

もみじが咲き乱れている。そんな庭を背にして見合いをした華族出の男子に、雪子が心を決めたことを知り、鶴子と幸子は微笑み合う。

細雪が舞い散る頃、夫の転勤で東京へ向かう汽車に乗った鶴子を、雪子と婚約者が見送る。

場末の旅館では、一人酒を飲む貞之助の涙が切なかった。
  (注釈2)



永井荷風も谷崎潤一郎も食通だった。晩年荷風はかつ丼しか食わず、谷崎は死ぬ直前まで美食を楽しんだ。共に79歳で没した。

その半分も生きず、「細雪」と同じ年に「人間失格」を発表して心中した太宰治は、「女生徒」の中の登場人物に「濹東綺譚」が好きだと言わせた。
そんな彼の生誕100年目、久々に秀作が生まれた。「ヴィヨンの妻」である。


小説家の大谷(浅野忠信)は、呑んだくれで身勝手な男である。
行きつけの小料理屋から五千円を盗んだ挙句、家まで追いかけてきた椿屋の夫婦に刃物を振りかざし逃げ去る。
驚いた妻の左知(松たか子)は、平身低頭あやまる。2歳になる息子を抱え、借金のかたに押しかけるようにして椿屋の手伝いを始める。
だがべっぴんの彼女を目当てに飲んべえ客が増え、店も繁盛し、チップも沢山もらう。

「生まれたときから死ぬことばかり考えてたんだ。それでいて、なかなか死ねない」

左知に向かってそう言う大谷には破滅型の魅力がある。だから女の読者が虜になる、と編集者は言う。
そもそも彼女と一緒になったのも、万引きと疑われ交番で取り調べを受けていた彼女を、自分のためだと言って救ったからだ。

だが健気に働く左知をよそに、泥酔した大谷がバーのママと五千円を返しに来る。
帰りの汽車で一緒になる常連の岡田(妻夫木聡)との仲を疑い、昼間から酒を飲みながらなじる。
岡田が気に入っていると言う「タンポポの花一輪の誠実」なんて小説の中の戯言でしかない。

大谷が心中未遂を起こし、殺人容疑をかけられる。彼に惚れたばかりに身を落とした秋子(広末涼子)が相手である。
「夫に心中された女房はどうすればいいの」と留置所の面会室で、左知は涙を流す。
  (注釈3)



1924年(大正13年)、谷崎潤一郎は初期の代表作「痴人の愛」を発表する。
その中で15歳のナオミは、浅草のカフェに入り
ウイスキー炭酸を注文する。
アメリカ開拓時代に生まれた
ハイボールである。
日本に何時伝わったか知らないが、すでに80年以上前から飲まれていた。





注釈1、「濹東綺譚」(監督、脚本:新藤兼人) 
      日本映画 1992年製作
      キネマ旬報ベストテン新人女優賞(墨田ユキ)受賞

      メーカー:パイオニアLDC
      メディア:DVD

注釈2、「細雪」(監督、脚本:市川崑)
      日本映画 1983年製作 英題:The Makioka Sisters
      台詞校訂、谷崎松子(潤一郎夫人)
      キネマ旬報ベストテン助演男優賞(伊丹十三)受賞
      アジア太平洋映画祭作品賞、監督賞受賞

      メーカー:東宝ビデオ
      メディア:DVD

注釈3、「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」(監督:根岸吉太郎)
      日本映画 2009年製作 英題:Villon’s Wife
      モントリオール世界映画祭最優秀監督賞受賞
      日本アカデミー賞最優秀主演女優賞(松たか子)受賞
      キネマ旬報ベストテン主演女優賞受賞

      メーカー:ポニーキャニオン
      メディア:DVD

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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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