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2011年03月10日

親父の背中に追いつくとき。

Father and son at dusk
Father and son at dusk / tinali778


親父の背中に追いつくとき。
introducing 「山の郵便配達」「ホテル・ニューハンプシャー」

僕と親父は、決して仲のいい親子ではなかった。
1970年代前半、僕は受験勉強で忙しく、親父は仕事で忙しかった。
大学に合格し遠く離れた生活をしているせいか、親父のあらゆる忠告を無視し続けた。大学を辞めると言い出したとき、二人の溝は決定的に深くなった。

多くの人から何故大学を辞めたのかと訊かれる。もったいないじゃないかと言われる。するとその時々の相手や気分によって、様々な理由をこしらえた。「女の子にふられたから」とか「勉強する気がなくなったから」とか「映画にうつつを抜かしてたから」とか。

どれも嘘ではない。だが僕を十分満足させる理由にならなかった。
どうやら当時の僕は、サリンジャーのような作家になりたいと空想していたようだ。
今でも、彼のように立派な短編小説を書きさえすれば、親父は僕のライフスタイルを認め、仲のいい親子になれるかもしれない、と思っている節がある。
だが時々散歩しながらこう思う。既に前を歩く親父の背中に追いついている。親父より十年早く、頭が薄くなり出したから。

こんばんは、マンハッタン坂本です。

僕のもっとも古い記憶は、やはり親父に反発したことだ。
そのとき僕はおそらく3歳で、親父と二人で自宅近くにある大学キャンパスを散歩していた。何かの切っ掛けで叱られ、ちょうど目についた土手の排水溝の中に逃げ込んだ。危ないから早く出なさいと親父は優しく声をかけたが、僕は長い間篭城した。
親父は手荒なことはしなかった。
この出来事を思い出す度に、何故か親父が気の毒になってくる。



中国湖南省の山岳地帯。往復223キロの道のりを二泊三日かけて郵便配達をする。
長年の過酷な労働で足を悪くした父親(トン・ルーチュン)が引退し、24歳の息子(リィウ・イエ)が重いリュックを背負ってあとを継ぐ。
 
初仕事の日、案内役をする犬の“次男坊”が動こうとしない。仕方なく父がついて来る。子供の頃怖くて父さんと呼んだ覚えがない。姿が見えなくなるくらい遅れるので心配になる。
最初の村に着くと、村人総出で歓迎される。二つ目の村で、孫の手紙だけを楽しみにしている盲目の老婆のために、嘘の手紙を代読する。三つ目の村で、顔なじみの娘に紹介され、婚礼の宴で一緒に踊る。

父がやってきた仕事の過酷さを身にしみて実感する。だがどうして車の通る道があるのに歩いて配達するのか理解できない。
近道で川を渡るとき、一人前の男になるのだと決意し、父を背負っていく。水車の前で下ろし振り返ると、父が涙目をそらす。
二人してタバコを吸ったあと、「父さん、行こう」と言う。

山で暮らす人々の貧しさを目の当りにする。父がきっぱりと言う。

「もし人に希望がなくなったら、人生の喜びもない。郵便配達も同じさ」

父に見送られながら旅立つ。少し遅れて“次男坊”がついてくる。
  (注釈1)



ウィン・ベリー(ボー・ブリッジス)は、学生時代にアルバイトしたリゾート・ホテルと“メイン州”という名の熊の思い出だけに生きる教師だ。
彼は、いつもおとぎ話代わりにその話を5人の子供たちにする。ホテルでプロポーズした妻と一緒に。

長男のジョン(ロブ・ロウ)は、実の姉を慕いつつ筋トレと女子と寝るだけの高校生。長女のフラニー(ジョディ・フォスター)は、弟の熱い想いを知りつつ同級生にレイプされる。次男はホモでいじめられ、次女のリリーは背が伸びなくて悩み、三男はマザコンである。

ウィンは、廃校になった校舎を買い取り、夢に見た「ホテル・ニューハンプシャー」をオープンする。
家族ぐるみで経営し成功するが、熊の元飼い主であるフロイトから頼まれ、ウイーンのホテルを手伝うことにする。

だが来てみると売春婦と過激派の巣窟である。おまけに、後から来る筈の妻と三男を飛行機事故で失う。
残った5人とフロイトといつも熊の着ぐるみを身に付けたスージー(ナスターシャ・キンスキー)と力を合わせて新規オープンする。

「人間ってすばらしい存在だ。生き抜く力がある」

ホテル経営がうまくいかず、失敗を認めた父親がジョンに向かって国に帰る意思を伝える。
折しも過激派のオペラ座爆破計画が発覚し、家族が人質となる。阻止しようとしたウィンが爆発に巻き込まれ、失明する。

英雄として国に戻ってからは、リリーの書いた小説「大きくなりたくて」がベストセラーとなり、お陰で一流ホテルのオーナーとなる。だがリリーは2作目が書けず自殺する。
ジョンは、気の済むまでフラニーとセックスをし想いをとげ、熊のスージーと結ばれる。

夜明けは盲人にもすばらしい、と呟く父親の背中に向かって、ジョンが満足気にフラニーに言う――「リリーなら言うね。人生はおとぎ話」
  (注釈2)

ジャック・オッフェンバックの「ホフマンの舟歌」が終始流れる。
父親と息子が帰国を決意したウイーンのカフェ、ハープの調べが心に染みた。

「ホフマンの舟歌」



結局のところ、親父の背中は時代を反映する鏡なのかもしれない。地道な人生を歩んだとしても、波乱に満ちた人生を歩んだとしても。
 
僕の親父の背中は、高度経済成長を背負ってきた。
その申し子と言うべき僕は、親父の期待を裏切り続けた人生だった。
それでも晩酌の時は、黙って酒を酌み交す





注釈1、「山の郵便配達」(監督:フォン・ジェチイ)
        中国映画 1999年製作 英題:Postmen in the Mountains
        中国金鶏賞作品賞、主演男優賞受賞
        モントリオール国際映画祭観客賞受賞

        メーカー:パイオニアLDC
        メディア:DVD

注釈2、「ホテル・ニューハンプシャー」(監督:トニー・リチャードソン)
      アメリカ・イギリス・カナダ映画 1984年製作 原題:The Hotel New Hampshire
      原作:ジョン・アーヴィング
      主題曲:ジャック・オッフェンバック「ホフマンの舟歌」(歌なし)

      メーカー:紀伊國屋書店
      メディア:DVD

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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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