INFORMATION INFORMATION

2011年04月01日

理髪師の密かな愉しみ。

Hair cut & shampoo at Taiwan
Hair cut & shampoo at Taiwan / kawanet


理髪師の密かな愉しみ。
introducing 「うなぎ」「チャップリンの独裁者」

後にも先にも、理髪店に通うのが愉しみだったのは、中学2年生のときだけである。
僕の髪を切ってくれる理髪師は、僕より十歳年上の20代で、ほのかないい匂いがした。見え隠れするうなじはきれいで、胸のふくらみまで伸びている。間近で堂々と見られる機会はそのときしかない。
やがて理髪師はお腹が大きくなり、店に出なくなった。そして僕の密かな愉しみも終わった。

だからと言って、ジャン・ロシュフォールのように「髪結いの亭主」になりたいとは思わない。
どういうわけか、彼が映画の中で披露する奇妙キテレツなダンスは、僕も得意である。
  (注釈1)

僕は髪を切られる側だが、切る側にも密かな愉しみがあるようだ。

ハイホー、マンハッタン坂本です。



「話を聞いてくれるんです」

出所する際に、飼っていた「うなぎ」を看守から渡された山下哲郎(役所広司)は、保護士で住職でもある中島(常田富士男)に尋ねられ、そう答える。

彼は、習得した技術を生かして理髪店を開き、トラブルに巻き込まれることなく、仮出所の2年間をうなぎと一緒に過ごすつもりだった。そうすれば、8年前に出刃包丁で刺殺した浮気妻を忘れられる。

ところが、近所に住む船大工から無理やりうなぎ釣りに誘われる。
教えられた穴場でうなぎの餌を捕っていると、睡眠薬を大量に飲んだ若い女を発見する。命を取りとめたものの、服部桂子(清水美砂)を助けたら最後まで面倒みろ、と住職の妻(倍賞美津子)から脅される。仕方なく彼女をタダ働きさせる。お陰で店は繁盛するが、二人の関係を噂される。揚句に、ゴミ集配の仕事をするムショ仲間の高崎(柄本明)と鉢合わせになる。

店を手伝うばかりか、桂子は献身的に身の周りの世話をしてくれる。高崎から前科を知らされても変わらない。うなぎ釣りのときは弁当を用意するが、山下は決して受け取らない。妻が作った手弁当を持って徹夜の海釣りをしている間に、浮気相手と寝ていたからだ。

桂子の愛人でサラ金の社長をする堂島(田口トモロヲ)が店に乗り込んで来る。母親名義の3千万の通帳を持って桂子が雲隠れしたからだ。そこへ妊娠している彼女が駆けつける。山下と桂子と店の常連と住職夫婦、社長と取り巻きに警官が加わり、大乱闘となる。うなぎの水槽も壊れる。

山下は、桂子に向かって産んでくれと言う。乱闘のさ中、俺の子だと宣言したからだ。
そして話相手のうなぎを川に帰してやる。
仮釈放を取り消された山下は、初めて桂子の弁当を受け取る。

理髪師の密かな愉しみは、うなぎのように赤道から戻って来て、生まれ来る丈夫な子供に会うことだった。
  (注釈2)



ブラームスの「ハンガリー舞曲5番」に合わせて、理髪師(チャールズ・チャップリン)が老人の顔を軽快に剃っている。
彼は、「独裁者」アデノイド・ヒンケル総統が支配するトメニア国のユダヤ人ゲットーに住んでいて、アーリア人から迫害されている。だがハンナ(ポーレット・ゴダード)という恋人がおり、幸せである。



反逆罪で逮捕された突撃隊のシュルツ長官(レジナルド・ガージナー)が脱獄して、ハンナが住む下宿屋の地下室にかくまわれる。前の世界大戦で理髪師に命を救われ恩義を感じていたシュルツのお陰で一時的に迫害が治まっていたが、彼が逮捕された途端に理髪師の店が焼打に合っていたのだ。

暴君を倒すため、公邸を爆破する殉教者を決めてくれ、とシュルツは下宿屋の主人に頼む。コインの入ったプティングを選んだ者が実行するのだ。だがハンナの仕業で集まった全員のプティングに入っており、てんやわんやとなる。

突撃隊が家探しに来る。理髪師はシュルツの荷物を抱え一緒に逃げるが、あっ気なく捕まる。ハンナと別れを惜しむ間もなく強制収容所に送られる。

軍服に身を隠したシュルツ長官と理髪師が強制収容所から脱出する。
国境に近づくと、トメニア軍に出くわす。堂々と突破すればいいとシュルツに促され、理髪師はそのまま車に迎え入れられる。ヒンケル総統に酷似していたからだ。

オストリッチに進攻し、たちまち隣国を支配した偽ヒンケルが凱旋演説を求められる。
話さないと助からないぞとまたまたシュルツに促され、へっぴり腰の理髪師がラジオ放送用のマイクの前に立つ。

「人類は助け合うべきだ。お互いの幸せを願おう。憎み合ってはならない」

覚悟を決めてしゃべり出す。

「失意の多くの人々に、拷問に苦しみ無実の罪を嘆く人々に、彼らに伝えたい。“絶望するな”と。悪夢はいずれ消えるだろう」

自分の声が国中に響き渡っていることを意識し始める。
 
「新しい平和の世界のために戦おう。青年に仕事と未来を与え、老人に保障を与えよう。
独裁者もそう言って政権を取った。だが約束は大ウソで、守る気はない。独裁者は野望に燃え、民衆を奴隷にした。
戦おう、約束を果たすために。自由な世界のために。国境をなくして、野望と憎しみを追放しよう。良識のために戦おう。科学と進歩が人類を幸福にしてくれる。
兵士諸君。民主主義のために一致団結しよう!」


演説が終わるやいやな、兵士たちとオストリッチ国民から大喝采がわき起こる。

理髪師の密かな愉しみは、希望にあふれた愛するハンナの笑顔を夢見ることだった。
  (注釈3)



1940年、「独裁者」が公開された。
その時点でナチス・ドイツは、すでにオーストリア、ズデーデンを併合し、チェコスロバキアを解体し、ポーランド進撃により第2次世界大戦が勃発していた。
最初のガス室を備えた複合施設「クレマトリウム1」がポーランドのアウシュヴィッツ第1強制収容所に完成したのは、翌年である。

ニューヨークで先行上映された9月、日独伊三国軍事同盟が成立した。
お陰で日本で一般公開されるまでに、20年の歳月を要した。

チャールズ・チャップリンに言わせれば、下品な口ひげをしたアドルフ・ヒトラーを何としても笑い者にしたかったという。彼と同じ1889年生まれだからではない。


1952年に日本で公開された「殺人狂時代」で、連続殺人犯を演じたチャーリーはこんな名セリフを残している。

「大量殺人者としては、私などアマチュアだ」



現在でも独裁者は存在する。エジプトのムハマンド・ホスニー・ムバーラク、リビアのムアルマル・アル=カッザーフィー(カダフィ大佐)、などなど。
歴史の長い国でも自己顕示欲の強い独裁者は、えらく目立つ。

だが大国では、組織の中に潜んでいる。しかもまともな人間の姿をしていない。醜い人造人間のようなモンスターだ。
どうやら日本にもモンスターがいるようだ。今回の福島原発事故で、その姿が見え隠れしている。




東京大学・大気海洋研究所と独立行政法人・水産総合研究センターの研究チームが天然のニホンウナギの卵を採集することに初めて成功した。場所は、日本の南約2200キロのグアム島西側にある西マリアナ海嶺南端部(北緯12度近く、赤道からそう遠くない)である。
研究者にとって卵の採集は「すごろくで言えば上がり」だそうだ。

だが食卓からウナギが遠ざからないことは、酒を飲む者にも飲まない人にも吉報である。






注釈1、「髪結いの亭主」(監督:パトリス・ルコント)
      フランス映画 1990年製作 原題:Le Mari de la Coiffeuse
      英アカデミー賞外国語映画賞受賞

      メーカー:エスピーオー
      メディア:DVD

注釈2、「うなぎ」(監督:今村昌平)
      日本映画 1997年製作
      原作:吉村昭「闇にひらめく」
      キネマ旬報ベストテン第1位
      日本アカデミー賞最優秀監督賞、主演男優賞、助演女優賞(倍賞美津子)受賞
      カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞

     メーカー:ケイエスエス
      メディア:DVD

注釈3、「チャップリンの独裁者」(監督:チャールズ・チャップリン)
      アメリカ映画 1940年製作 原題:The Great Dictator
      ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞受賞
      キネマ旬報ベストテン第1位

      メーカー:紀伊國屋書店
      メディア:DVD

マンハッタン坂本のシネマワンダーランドが気にいった!
そんな方は、一票お願いします→ 人気ブログランキングへ
人気ブログランキングへ
posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(1) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「髪結いの亭主」から「うなぎ」を経由して、
「独裁者」ですかぁ・・・。

しかしここは女性読者を意識して、
「スウィーニー・トッド」なんかも挟むと
面白かったりして(笑)。
(あれもミュージカル仕立てだから、歌ってるし)

しかしチャップリンは
やっぱり独特の存在感ですなぁ。

Posted by domino at 2011年04月11日 10:29
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:



×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。