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2011年08月01日

責任ある顔ってどんな顔?

mona lisa
mona lisa / Lindy Drew Photography


責任ある顔ってどんな顔?
introducing 「都市とモードのビデオノート」「顔」「他人の顔」

生まれてから56年間、僕は化粧をしたことがない。
小学校の学芸会でドーランを塗られたことがあるかもしれないが、記憶にない。
少なくとも自分の意思で化粧をしたことがない。

映画は好きだが、役者になりたいと思ったことがない。
音楽は好きだが、ビジュアル系のバンドをやりたいと思ったことがない。
仮装パーティもお祭も参加したくない。
別人28号になりたいとは思わない。化粧する人の気持なんてまったく分からない。

ある程度歳を重ねれば、男に限らず女だって自分の顔に責任を持つべきだ。
ココ・シャネルも言っている――「20歳の顔は天からの授かりもの。50歳の顔は自分でつくり上げたもの。生き方そのものが顔に出る」

この言葉は、すっぴんのときも化粧してるときも、という意味だろうか。
韓流スターなら、自分の整形に責任を持ちなさい、か?

ハイホー、マンハッタン坂本です。


「都市とモードのビデオノート」は、日本の代表的なファッション・デザイナー山本耀司に関するシネ・エセーである。わざとエッセイの語源である「エセー」を使ったのは、その著者であるミッシェル・ド・モンテーニュがルネサンス期のフランスを代表するモラリストだからだ。
ヨージ・ヤマモトは、都市の中でも生まれ故郷の東京とパリが好きだと言う。
監督であり語り部であるヴィム・ヴェンダースは、彼の東京の事務所で、自分も大切にしているという写真集を見つける。アウグスト・ザンダーの「20世紀の人間たち」である。

新興宗教の教祖みたいな風貌のヨージ・ヤマモトが写真集をめくりながら言う――「特に彼らの顔に興味をひかれます。その経歴や職業に、ぴったりの顔をしてるでしょう。だから、彼らの顔が大好きなのです。服装も好きです」
  (注釈1、注釈2)
アウグスト2.jpg  アウグスト1.jpg


1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起きたとき、35歳の吉村正子(藤山直美)は逃亡を始めたばかりだった。母親が営む尼崎のクリーニング屋で長年ミシン相手にリフォームをしていたせいか、ぶくぶくと太っている。思わずバチが当たった!と叫んだのは、妹(牧瀬里穂)の首を締めた直後だったからだ。
妹にしてみれば、母親が急死したのに2階の部屋に閉じこもって葬式に出てこないし、終った頃にやっと降りてきたので、小さい頃から姉ちゃんのことが恥ずかしかった、となじりたくもなる。

生き別れた父親を尋ねようとして気が変わり、正子は交番へ自首する。誰もいない。その代わり、酔っ払ったトラックの運転手に引きずり込まれ、荷台で強姦される。だが盗んだ香典を3袋ばかり渡し立ち去る。今まで男を知らなかったからだ。

泊まろうとしたラブホテルの受け付けのおばちゃんからラーメンをふるまわれ、仕事を替わってくれと頼まれる。借金まみれのオーナー(岸辺一徳)から自転車の乗り方を教えてもらう。オーナーが首を吊ったので、慌てて自転車で逃げる。おぼつかない運転で正面衝突する。マスクをして列車に乗り込む。

「自転車でこけて、顔を地面にぶつけたんです。そしたら、こんな腫れてしもて。ついでに体もぶつけて、こんな腫れてしもうて」


向かい合わせのハンサムな男(佐藤浩市)に訊ねられ、そう答える。二人で大笑いする。笑いすぎ、と正子は嬉しそうに突っ込む。

別府で男が下りたので、あとから下りる。
貸し店舗に入り込み、コードで首を吊ろうとするが、重すぎて床に転げる。シャッターの隙間から助けを呼ぶと、「クラブ律子」のママ(大楠道代)が覗きこむ。安アパートを借りてくれ、そのまま店を手伝う。厚化粧をして花柄のワンピースを着る。

服のほころびを直してやった店の客(國村準)から酔った勢いで迫られる。元ヤクザでママの弟(豊川悦司)から売春を強要される。
すっかり上手くなった自転車で買い出しに行った帰りに、列車の男と再会する。小学生の息子を残したまま妻に逃げられたと言う。一緒にクラブで酔いつぶれる。

翌日、ママの弟がヤクザに殺され、警官がクラブに来る。
息子を連れた男と動物園の象の前で待ち合わせをし、意味不明な言葉を言って別れる。世話になったママに電話で礼を言う。ママが涙ながらに引き止める――「死ぬぐらいやったら、どっかで生きちょって」

連絡船で島に渡る。求められるがままにリフォームを始める。
祭りの日、キツネ踊りの少年からTVに映っていると言われる。律子と一緒にクラブで撮った写真だ。ピースサインをした笑顔がはじけている。
浮き輪をした正子は、大海原に向かって泳ぎ続ける。
  (注釈3)



液体酸素の爆発で、奥山(仲代達矢)の顔は包帯でぐるぐる巻きである。かろうじて両目と鼻と口の箇所に隙間がある。新聞は読むことが出来る。喋ることも出来る。煙草をくゆらすことも出来る。ただ、妻(京マチ子)の立てる石磨きの音が耳障りだ。

「顔は心の扉で、顔が閉ざされれば一緒に心も閉ざされてしまい、もはや訪れる客もない」

自分の視野に入って来ない妻に苛立ち、奥山は皮肉めいた言葉ばかり口にする。

実験的な興味に付け込み、精神科医(平幹二朗)にプラスチック製の仮面をつくらせる。隠れ場所としてアパートも借りる。

「女は女である以上に、見せびらかすほどの素顔なんか持っていません」

1週間ほど出張に行くと言った日、妻と女の化粧が話題になる。やはり遠まわしの皮肉にしか聞こえない。

完成した仮面を奥山が装着する。なかなか馴染まず息苦しい。
常務の立場にある会社の秘書と面会する。サングラスを外し、目を見開く。まったく気づかない。
気をよくした彼は、妻を誘惑する計画を明かす。危険だと医者が警告する。

「他人の顔」になりすました奥山が妻に近づく。まんまとアパートに連れ込む。久々に彼女を抱く。あまりに簡単すぎるのに苛立ち、仮面を脱ぎ捨てようする。だが始めから妻は気づいていたのだ。

奥山が暴行事件を起こし、警察に医者が引き取りに来る。顔のない人々が二人の前を通り過ぎていく。
奥山は、隠し持ったナイフで医者の背中を刺す。
  (注釈4)



昔書いたラブストーリーの中で、21歳の僕は未練がましく彼女にこう言う――「僕は何だか、変装しそこなった怪人二十面相だよ」
大嘘だ! 化粧なんてしたこともないのに怪人二十面相の何が分かる?

ところが今やその歳の倍以上も生きている。
運よく顔をなくしたわけではない。どう足掻いても、顔に責任を持つ歳だ。
心優しい人たちは、変わらないと言ってくれる。お世辞でも嬉しい。
今何やってるのと訊かれれば、こう答えるしかない――「変わらないよ。25歳の頃と同じだ」





注釈1、「都市とモードのビデオノート」(監督:ヴィム・ヴェンダース)
      ドイツ・フランス映画 1989年製作 英題:Notebook on Cities and Clothes

      メーカー:東北新社
      メディア:DVD

注釈2、「20世紀の人間たち」(アウグスト・ザンダー肖像写真集1892−1952)


     メディア:洋書

注釈3、「顔」(監督、脚本:阪本順治)
      日本映画 2000年製作 
      キネマ旬報ベストテン第1位、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演女優賞(大楠道代)受賞
    
      メーカー:松竹ホームビデオ
      メディア:DVD

注釈4、「他人の顔」(監督:勅使河原宏)
      日本映画 1966年製作 英題:The Face of Another
      原作、脚本:安部公房
      毎日映画コンクール美術賞、音楽賞(武満徹)受賞

      メーカー:パイオニアLDC
      メディア:DVD


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posted by マンハッタン坂本 at 02:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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