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2014年08月04日

この日をつかめ CARPE DIEM

carpe diem
carpe diem / OliBac


柄にもなく、文学してます。 PARTT <追悼 ロビン・ウィリアムズ> 

この日をつかめ CARPE DIEM
introducing 「いまを生きる」「この日をつかめ」

主人公が40代半ばの中年男にもかかわらず、20代の僕が将来の自分を垣間見るような、心を揺さぶられる小説にめぐり合ったことがある。このタイトルの小説がそれである。
   (注釈1)

ラテン語の原文を添えたのは、古代ローマの詩人クィントス・ホラティウス・フラックスの「抒情詩集」から引用されているからだ。カルぺ・ディエムと読む。SEIZE THE DAY と英訳されている。

「われわれの話すあいだも、時は意地悪く過ぎてゆく。この日をつかめ。明日はあまり信じないで」

詩の一節を日本語に訳せばこうなる。
だがカルぺ・ディエムを直訳すると「その日を摘め」となる。「バラのつぼみは早く摘め」という意訳もある。
「この日をつかめ」は、あくまでSEIZE THE DAY の訳だ。「その日をつかめ」という言い方もある。「あの日をつかめ」はちょっとまずい。

ハイホー、マンハッタン坂本です。


「伝統、名誉、規律、美徳」の四柱を重んじる、アメリカ屈指の全寮制進学校であるウェルトン学院のショールームには、数多くの優勝トロフィーとラグビー選手の集合写真が飾ってある。

「今を生きろ、若者たちよ。すばらしい人生をつかむのだ」

英語教師として赴任したジョン・キーティング(ロビン・ウィリアムズ)は、ショーケースの前で生徒たちに聞き耳を立たせ、そうささやく。
彼の最初の授業を受けた生徒の中には、学校をヘルトン(地獄学院)と呼び、四柱を「模倣、醜悪、退廃、排泄」と揶揄する悪童たちと仲のいいニール・ペリー(ロバート・ショーン・レナード)がいる。彼と同室になった転校生のトッド・アンダーソン(イーサン・ホーク)もいる。

次の授業でキーティングは、分厚い教科書「詩の理解」概論のページを破り捨てさせる。シェークスピアの台詞を映画スターの物真似で笑わせる。いきなり教壇の上に立ち、物事の異なる面から見ろと言って、生徒たちにも同じことをやらせる。
悩んだ末、自作の詩を発表できないトッドに、手で目隠しをし、言葉をしぼり出させる。
声を張り上げるうちに、トッドは心の内の言葉を次々と吐き出す。

卒業生年鑑でキーティングが「死せる詩人の会」の主催者だったことを発見したニールは、小川の近くの洞窟で会を復活させる。悪童たちは、スナック菓子や楽器、酒まで持ち込み、盛り上がる。先走った一人が学校新聞に投稿し、存在が知れる。

もともと芝居好きだったニールは、市民劇団の「夏の夜の夢」の主役に抜擢される。だが厳格な父親に知られ、公演直前に出演を禁じられる。キーティングに相談するが、許可をもらうよう言われる。
悪童たちを含めた観衆の大喝采を浴びて演技を終えたあと、ニールは父親に連れ去られる。そのとき初めてキーティングは、自分に嘘をついて出演したことを知る。果たして陸軍学校へ転校を命じられたニールは、父親の拳銃で自殺する。

「死せる詩人の会」のメンバーが放校をまぬがれるには、生贄が必要だった。
校長が代理で英語の授業をする最中、キーティングが控室に置いた私物を取りに来る。
トッドは頑然と机の上に立ち上がる。次々と仲間たちが机に上がる。半数の生徒が目を輝かし恩師を見下ろす。ありがとう、と言ってキーティングは去る。
   (注釈2)



悩みを隠すこととなると、トミー・ウィルヘルム(ロビン・ウィリアムズ)はそう人にひけをとらない方だ。彼はエキストラだった。演技のやり方は心得ていた。
彼は44歳で、ニューヨークのグローリアーナ・ホテルで暮らしている。医者を引退した父親のそばに戻ったのだ。だが父はそれを快く思っていない。人前で息子を自慢するくせに、彼の悩みが話題に上ると、過去のあやまちを責める。助けを差し伸べようとしない。

ウィルヘルムの半生は、あやまちの連続だった。それが経歴となっている。
ハリウッド行きが間違いだと判っていたのに、大学を中退する。マーガレットと結婚しないと決心したのに、駆け落ちする。社長の娘婿に重役を横取りされ、反動で会社を辞める。挙句に、二人の可愛い息子と別れ別れとなる。
そしてウィルヘルムは、心理学者のタムキンと組んで投資をしないと決めたのに、彼に小切手を渡してしまう。

「僕は金をとらないときがいちばんいい仕事ができる。ただ愛情からやるとき、金銭の報酬を受けないときがね。そういうとき、僕は世俗的な力の影響から抜け出ている。とりわけ金の影響から。精神的な報酬こそ僕の求めるものなんだ。」

「過去はもう役にはたたない。未来は不安でいっぱいだ。ただ現在だけが、『いま・ここ』だけが実在するものなんだよ。この時を――この日をつかめ、だ。」

なけなしの700ドルの行方が気になって仕方ないウィルヘルムに向かってタムキンは、そう言って治療中の患者の話で煙に巻く。

二人は仲買会社のホールへ入り、商品取引市場のラード株の値をチェックする。買値より下がったままだ。
小さな損で止めようとウィルヘルムが持ちかけるが、しきりに「いま・ここ」を繰り返しタムキンが暗示にかける。

タムキンより遅れて昼食から戻ると、目を疑うような値に下落している。
ウィルヘルムは、泣き出したい気持ちでタムキンを探しまくる。マッサージ室にいる父に泣きつくと、はねつけられる。妻に電話をすると、養育費の滞納をなじられる。

ブロードウェイでタムキンの姿を見かける。追いかけるうちに、告別式の群衆にまぎれ込む。そのまま礼拝堂の中へ押されていく。
弔問客の列は、ゆりや季節の花ライラックの盛り花が並んだ方へ進んでいく。
柩(ひつぎ)の中の死者をのぞきこむウィルヘルム。ありとあらゆる心の乱れの果てに、ここにたどりついたのだ。彼は我を忘れて泣きくずれる。
   (注釈3)
White Lilac
White Lilac / Thor Thorsson 1



僕としては極めて異例のことだが、映画化作品の粗筋を書いていない。あくまで原作小説をもとに、可能な限り簡潔に内容を紹介した。
原作の熱狂的なファンとしては、主人公を必要以上にヒステリックに描いた映画に不満だったからだ。そしてロビン・ウィリアムズの生かし方を間違っていたからだ。本来の彼なら、どんなに追い詰められてもウィルヘルムを滑稽に演じていたにちがいない。

1976年、原作者のソール・ベローは、ノーベル文学賞を受賞した。
そのとき初めて彼の名前を知った。
しかもアイデンティティの作家だと知ったのは、集英社の週刊「プレイボーイ」の記事からである。

この手の雑誌は、TVシリーズ「ルーツ」の放映が決まれば、大々的に取り上げる。
日本独自の略語であるロリコンに尾ひれをつけて喧伝する。1955年に発表されたウラジーミル・ナボコフの小説「ロリータ」から引用したわけでも、1962年にスタンリー・キューブリックが監督した映画から引用したわけでも、1969年に日本で出版された心理学者ラッセル・トレーナーの研究書「ロリータ・コンプレックス」から引用したわけでもない。

ロリコンが流行り出した頃、既にナボコフもキューブリックもトレーナーも知っていた僕は、そのときまだ21歳で、アイデンティティという言葉に非常に興味を持った。
週刊「プレイボーイ」は、発達心理学者エリク・H・エリクソンが提唱した「自分とは何か」を問う概念である「自我同一性」(現在では、Ego Identityを意味する)。さらに自我同一性を獲得する(=社会的に認められた何者かになる)までの猶予期間であるモラトリアムも合わせて紹介していた。
ソール・ベローの処女長編小説「宙ぶらりんの男」とジャック・ニコルソンの映画「さらば冬のかもめ」にからめてである。

「宙ぶらりんの男」の主人公ジョウゼフは、アメリカ陸軍の徴募に応じたにもかかわらず、カナダ国籍のために手続きが遅延し、7ヶ月も待たされる。その間悶々と日記を綴る。そして最後に自由を放棄する。

 規則ずくめの時間、万歳!
 そして、監視つきの精神にも!
 画一化よ、永遠にあれ!


ちなみに、「さらば冬のかもめ」は、「楽しい護送の仕方、教えます」で紹介している。
http://www.manhattansakamoto.com/article/185626837.html

週刊「プレイボーイ」が取り上げた理由はいたって単純である。
ソール・ベローはノーベル文学賞を受賞したばかり。ジャック・ニコルソンは、1974年にカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した名作の公開が迫っていたからだ。米アカデミー賞主演男優賞を受賞した「カッコーの巣の上で」で知名度が高くなっていたせいでもある。


そんなわけで、僕は「宙ぶらりんの男」を読み、「この日をつかめ」とめぐり合った。
若い女性の流線型の一部を露出させた表紙につられて、買い求めただけの甲斐はあった。





注釈1、「この日をつかめ」(著者:ソール・ベロー)
     初版:1956年 原題:Seize The Day

     出版社:新潮社
     メディア:文庫本

注釈2、「いまを生きる」(監督:ピーター・ウィアー)
     アメリカ映画 1989年製作 原題:Dead Poets Society
     米アカデミー賞オリジナル脚本賞受賞
     英アカデミー賞作品賞、音楽賞(モーリス・ジャール)受賞

     メーカー:ブエナ・ビスタ・ホーム・エンタテインメント
     メディア:DVD


注釈3、「ミッドナイト・ニューヨーカー」(監督:フィルダー・クック)
     アメリカ映画 1986年製作 原題:SEIZE THE DAY
     メーカー:ポニー・キャニオン
     メディア:VHS




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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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