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2013年06月10日

ぼくが箱男になった理由。

箱男―The Box Man箱男―The Box Man

ホントのことを言うと、よく、しかられる。 PARTU

ぼくが箱男になった理由。
introducing 「真夜中のカーボーイ」「フィッシャー・キング」

日本の文章表現は世界一豊かだと思う。
世界共通の数字や記号や絵文字(?)を除いて、ひらがなやカタカナや漢字やローマ字など、少なくとも4種類の文字を使い分ける国民は、世界中どこを探してもいない。

ただ困ったことに、和語と漢語で表現できるのに、わざわざカタカナ語を使う。
NHKのニュースですら例外ではない。昭和一桁以前の年寄りには、いちいち説明しなくてはならない。電子辞書を携帯していないので、適当に答える。

都合のいいカタカナ語もある。80年代後半から使われ出した「ホームレス」だ。
1973年、純文学書き下ろし特別作品として安部公房が「箱男」を発表した頃、新聞は「浮浪者」と呼んでいた。路上生活者より差別的な言葉だ。
1971年に大ヒットしたシェールの「Gypsies,Tramps&Thieves」の「トランプ」も、1973年に公開された映画「スケアクロウ」でジーン・ハックマンが使っていたHOBO JUNGLEの「ホーボー」も、浮浪者の代わりに採用されなかった。

「箱男」の化粧箱の裏には日本国籍を取得したドナルド・キーン氏が絶賛する文章、表には安部公房自身のコメントが印刷されている。

「(ダンボールの箱にもぐり込む者が)不在証明を手に入れても、かわりに存在証明を手離してしまったことになる。匿名の夢である。そんな夢に、はたして人はどこまで耐えうるものだろうか。」

ハイホー、マンハッタン坂本です。


エンリコ・サルバトーレ・リゾ(ダスティン・ホフマン)は、ニューヨークのゲイからラッツォと呼ばれている。薄汚い格好の小男で右足を引きずっているからだ。肺病みたいな咳も止まらない。
取柄と言えるのは、父親の商売だった靴磨きか散髪くらいだ。

ハスラー気取りでテキサスから乗り込んで来たジョー・バック(ジョン・ヴォイト)と知り合い、男に飢えた女の仲介屋を紹介する。
まんまとだまして紹介料をせしめるが、持ち金がなくなりホテルを締め出されたジョーにとっ捕まる。

自慢のカウボーイ・ハットとウエスタン服とブーツ、そしてラジオだけとなった彼を仕方なく隠れ家に連れて行く。廃墟ビルの一室である。壁にはフロリダのポスターを貼っている。
ジョーのイチモツで稼ぎたいが、うまくいかない。冬の寒さがこたえる。

売血で食堂のめしにありついた二人は、ブロードウェイで開かれるサイケデリックなパーティに招待される。
そこでジョーが知り合った中年女(ブレンダ・バッカロ)を仲介する。意気揚々と彼が帰って来るが、ラッツォが歩けない。階段から転げ落ちたからだ。

ホテルに連れ込んだゲイの紳士からふんだくった金で、ジョーがマイアミ行きのバスに乗せてくれる。31時間の長旅だ。

「新天地へ行くのに、脚も尻も胸も顔も痛い。それだけでなく小便まみれだ」

涙ながらにそう言うと、こっそり自分だけトイレ休憩か、とジョーに笑われる。ヤシの木の柄の入ったシャツを着せてくれる。

ラッツォは、やがて眠るように息を引き取る。開いたままの目を閉じてくれたのはジョーだった。
   (注釈1)
ハリー・ニルソン-EVERYBODY'S TALKIN'「うわさの男」



「ヤッピーたちを殺せ!」
人気DJジャック・ルーカス(ジェフ・ブリッジス)が発した不用意な言葉を真に受けた青年がヤッピーの溜り場である「バビッツ」で乱射事件を起こして3年が経った。
ちょうどその店に居合わせた大学教授のヘンリー(ロビン・ウィリアムズ)は、妻を失ったショックで言葉を失う。一年後パリーと名乗り、ボイラー室を根城にしてハドソン河畔でたむろするホームレスの仲間となる。

彼が常に探し求めているのは、「フィッシャー・キング」に出てくる聖杯である。
彼が常に怯えているのは、セントラル・パークに現れる悪魔の化身というべき馬に乗った赤い騎士である。
彼が常に憧れているのは、大手出版社に勤めるリディア(アマンダ・プラマー)である。いつもベレー帽をかぶった彼女は12時ぴったりにビルの出口に現れるが、回転ドアでいつも1度押し戻される。
夕方5時にはセントラル・ステーションを歩く。パリーの目には、突然通行人がカップルとなって群舞する中を彼女が優雅にすり抜けているように映る。

ビデオ店を経営するアン(マーセデス・ルール)のもとで、酒びたりの毎日を過ごすジャックは、ハドソン河畔で間違ってホームレス狩りに逢い、パリーと知り合う。
パリーの無軌道な行動に振り回されながらも、アンと結託して彼が憧れるリディアとのデートをお膳立てする。乱射事件の生き残りだとボイラー室の管理人に教えられたからだ。

二人が付き添って行った中華料理店での食事は、風変わりなパリーとリディアの独壇場だった。
リディアは焼ソバを身勝手にずるずると食べる。不器用な箸使いの二人はブロッコリでホッケーの試合を始める。浮かれたパリーはリディアの歌をえんえんと歌う。

「動作がぶきっちょで、時々自分に腹を立てる。ひどく孤独に落ち込む時も……君が好きだ」

別れ際にパリーが笑顔でそう告白する。疑い深かったリディアがキスをしてくれる。
だがその直後、赤い騎士が襲ってくる。狂ったように逃げ回るうちに、ハドソン河畔まで来る。ホームレス狩りに襲われ、重傷を負う。

妻を亡くした時と同じショック状態でベッドに横たわるパリー。
ジャックは、その様子を見て彼が言う富豪の屋敷に忍び込む。聖杯は単なる友人からのクリスマス・プレゼントだったが、それをパリーの胸の上に置き両手に握らせる。
やがて目を覚ました彼は、精神病棟の患者を集め「HOW ABOUT YOU」を合唱する。

素っ裸でセントラル・パークに横たわったパリーとジャックは、再び歌いながら夜の摩天楼を見上げる。マンハッタンの空に花火が上がる。
   (注釈2)
ハリー・ニルソン-HOW ABOUT YOU



ぼくは箱男。頭からかぶると、すっぽり腰の辺まで届くダンボールの箱の中だ。

縦横1メートル、高さ1メートル30の「四半割り」と呼ばれる規格品を使っている。目立つ特徴があると匿名性が弱められるからだ。
覗き窓は天井から14センチ、床が筒抜けだから小さ目である。なるべく厚手の艶消しビニール幕を上縁だけガムテープで貼り、下に隙間を開ける。この隙間は眼の表情に匹敵するものだ。
内側の壁には、湯呑みやら懐中電燈やら手拭いとかを鉤に吊るしている。シャバにいたときの名残りでカメラを持ち歩いている。

――私なら平気だな、いくら見られたって……
――ナイフで削るみたいに覗くんだぞ
――昔モデルしてたことがあるのよ。
――ぼくにできることと言ったら、シャッター切るくらいかな。
――私、あの箱がほしいの。

箱の代金5万円といっしょに、一通の手紙が投げ落とされる――「潮が引ききる前に、箱を海に流して下さい」

ぼく (診察机の上に5万円を放り出す)一応、あずかりはしたけど、まだ受け取ると決めたわけじゃない。箱の始末はつけたけどね。(そのあと、ニュース中毒になった話をする。)
贋箱男(贋医者) どうもよく分からない、その自己紹介。
ぼく ニュースを聞かない人間に、悪人はいないってことさ。
贋箱男 筋違いじゃないのか?
ぼく ぼくが箱男と同一人物だってことくらい、先刻承知だろ。
看護婦 写真家なんて、変り者が多いっていうじゃない。
ぼく 君が自転車に乗ったミニスカートの娘さんだろ。めっぽう脚の形がきれいな。長年箱で暮らしてると、下半身見る目だけは肥えてくる。
贋箱男 たしかに、箱ってやつは、見るとかぶるとでは、大違いだね。
ぼく 世間が箱男を黙殺するのは、なかみが誰だか分からないからさ。
贋箱男 君、裸になって見せてあげたら?
看護婦 いま、すぐに?
ぼく (箱男が専門の覗き屋なら、彼女は天性の覗かれ屋なのだ)
看護婦 (服を脱ぎながら、躓いたように小さく笑う)写真、撮りたければ、撮ってもいいのよ。

本日休診の札がかかったままの病院に辿り着いたとき、ぼくは箱の下で素っ裸だ。
――裸だっていいわよ。約束でしょ?
――古物のズボン、貸してもらえないかな。
――じゃ、私も裸になってあげる。
――男の裸なんか見たって――。
――その箱が嫌なの。一秒だって我慢出来ないのよ。

贋箱男はそのまま箱男になり、戻ってこない。
ぼくらは2ヶ月近く裸で暮らす。一日じゅう体の一部を接触させる。
ぼくが「君の髪の匂い」と呟くと、彼女が「くりくり丸い」と後を受け、ぼくの尻を小刻みにさすりつづける。
ある日、服を着けた彼女がぼくを見上げる。そしてそのまま姿を消す。

箱を加工するうえで、いちばん重要なことは、落書のための余白をじゅうぶん確保しておくことだ。
   (注釈3)


不遜ながら、シネワン・スタイルで「箱男」の気に入った部分だけを抜粋してみた。

安部公房は、自分の作品を無限の情報を持った地図だと言う――「目的に応じて読み方が変わってくる。それが本当の、有効な地図ですよ。」


ジェット・リョーくん版「箱女」 http://ocnis.petit.cc/
箱男2.jpg


フランスの監督が「箱男」から触発されて短編映画を撮っている。
予告編を見る限り、シュールでエロティックなイメージ以外は、原作とは別物である。




3・11東日本大震災による天災と人災のお陰で、数多くの被災者がホームレスとなった。
本来、住む家のない路上生活者を意味する「ホームレス」という言葉をあえて使ったのは、ホームレスの人たちが必ずしも自分の意思でホームレスになったわけではないからだ。
そういった意味で、天災で我が家を奪われた人たちも、人災で我が家に住めなくなった人たちも、ホームレスではないか。そう思えてならない。


良心的な原子力工学者によると、少なくとも福島県の大半と関東の一部が放射線管理区域になっているという。
日本の法令に従えば、今や565万人もの国民をホームレスにしなくてはならない。
汚染されなかった地方自治体がすべてのホームレスの受け皿になる意思があっても、国が援助しない限りそれを実現することはできない。

だが東北復興を錦の御旗に掲げながらも国は、法令に従う意志も財源もないらしい。
東電に至っては、福島第1原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではないので、除染に責任を持ついわれはないという。
本来ホームレス状態になる住民を放射線管理区域に住まわせておいて、見て見ぬふりを決めこんでいるのだ。

僕の勘違いならいいけれど、どうやらホームレスの人たちの戸籍は守っても、基本的人権は守ってもらえないらしい。





注釈1、「真夜中のカーボーイ」(監督:ジョン・シュレシンジャー)
     アメリカ映画 1969年製作 原題:Midnight Cowboy
     米アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞受賞
     ゴールデングローブ賞有望若手男優賞(ジョン・ヴォイト)受賞
     英アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)、編集賞、新人賞受賞
     主題歌:「うわさの男」(ニルソン)

     メーカー:20世紀フォックス・ホーム・エンターテインメント・ジャパン
     メディア:Blu-ray

注釈2、「フィッシャー・キング」(監督:テリー・ギリアム)
      アメリカ映画 1991年製作 原題:The Fisher King 
      ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞
      米アカデミー賞助演女優賞(マーセデス・ルール)受賞
      ゴールデングローブ賞<コメディ・ミュージカル部門>主演男優賞(ロビン・ウィリアムズ)受賞

      メーカー:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
      メディア:DVD

注釈3、「箱男」(著者:安部公房)
      初版:1973年

      出版社:新潮社
      メディア:文庫本


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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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