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2014年12月22日

東京に嫉妬する。

東京物語4.jpg

東京に嫉妬する。
introducing 「息子」「東京兄妹」

例えば東京スカイツリーとかリニューアルした東京駅とか、観光マニアでなくても、上京した折りにちらりとのぞいてみたくなる名所が次から次へと出現するからではない。
また、ミーハーな映画マニアがしでかす、お気に入り映画ロケ地めぐりができるからでもない。
何が口惜しいかと言って、東京ほど映画のタイトルにうってつけの地名はないからだ。
試しに各道府県に物語をくっつけてみると、手抜きで買ってくる土産物の名称にしかならないことが分る。

もちろん世界有数の映画監督である小津安二郎が5本も東京が頭につく映画を撮っているせいだし、小津の話なら徹夜でしゃべり続けられる市川準監督も3本の秀作を撮っているせいだ。
しかも「東京物語」へのオマージュであろうとなかろうと、タイトルに東京が入った秀作が実に多い。最近では、ロカルノ国際映画祭でグランプリ審査員特別賞を受賞した「東京公園」がある。
そして極めつきと言うか、山田洋次監督までタイトルに東京を使った。

ハイホー、マンハッタン坂本です。



当然のことながら、ユーモアとペーソスのある日常を描くことが得意な山田洋次監督が、松竹映画の大先輩である小津安二郎監督を意識しないわけがない。
「東京家族」は、「東京物語」をモチーフとして企画し、東日本大震災の影響で製作を延期し、現代版リメイクだった話を大震災後の設定に変更した。
だが山田監督の持ち味を発揮した監督らしい「東京物語」とは、「息子」ではなかったか。
  (注釈1)

岩手の山奥で農業を営みながら一人で暮らす浅野昭男(三國連太郎)には3人の子供がいる。長男は東京でサラリーマンとなり、結婚して2人の娘をもうけ、千葉にマンションを買ったばかりだ。長女は地元で結婚し子供を授かったばかりだ。東京でアルバイト生活をする次男の哲夫(永瀬正敏)だけが心配の種である。

やかましく言ったお陰で妻の一周忌にかけつけたものの、哲夫は法事の最中にアロハ姿で現れる。長男が紹介した仕事も辞めたと言う。フラフラした生活を咎めると、いつもバカにすると逆上する。
東京に戻ったあと、金属関係のカタい会社に勤めを変えたと葉書で知らせてきたが、気が気でない。

戦友会に出席するため、昭男は久々に上京する。20年もの間出稼ぎで馬みたいに働いたところだ。長男の嫁(原田美枝子)に連れられ11階のマンションを訪れる。夜遅く帰って来た長男が一緒に暮らすしかないと言い出す。心臓発作で倒れたからだ。
熱海の戦友会でしたたか酒を飲む。
帰り際、デパートの屋上で嫁からマフラーをプレゼントされる。懸命に優しく接してくれる嫁に対し、岩手の家で暮らすのが一番気が楽だと本音を言う。

予定を延ばし、哲夫のアパートを訪れる。一緒に銭湯へ行く。コタツで起きると、台所で息子が髪の長い娘と手話をしている。気づいた哲夫に促され、娘が緊張気味にお辞儀をする。めんこい娘だ。征子ちゃん(和久井映見)と紹介され、耳は聴こえないが、口を大きく開けてしゃべれば通じるらしい。

彼女と結婚するつもりだ、反対しても無駄だと哲夫が言い寄るので、昭男は解ったと制止する。

「あんた、ホントに、この子の、嫁子になって、くれますか?」

岩手なまりの東京弁で尋ねると、征子がニッコリうなずく。ありがとうと礼を言う。

征子が帰ったあと、興奮して寝つかれない。ビールを飲み、ねじりハチマキをして歌い出す。生きていたとはお釈迦さまでも知らぬ仏のお富さん、と手拍子しながら歌い続ける。
翌日、息子と息子の婚約者と秋葉原へ行き、ファックス付き電話機を買う。帰りの新幹線の中で思わず笑みがこぼれる。

雪に埋もれた我が家へたどり着く。すると誰もいないはずの囲炉裏を家族がかこんでいる。出稼ぎから突然帰った昭男を迎える。子供たちに土産を渡し、妻が一升瓶で酌をしてくれる。
両親も妻も生きていた頃、子供たちが小さかった頃の幸せな光景だった。
  (注釈2)



世界中にあまたいる小津安二郎チルドレンの中で、東京で生まれ東京で育った市川準監督は、正統な小津ワールドの継承者であると言っていい。しかも彼の偉いところは、東京を冠した作品以外に「大阪物語」という秀作を撮ったことだ。
従って「東京物語」は別格として、何かひとつ東京映画の傑作を選べと言われれば、市川準監督の「東京兄妹」と答える。

都電荒川線の鬼子母神(きしもじん)前停留場で降りた高校生の日暮洋子(粟田麗)は、家に帰って着替えをし、いつものように鍋を持って仁徳豆腐店で豆腐を買う。古書店で働く兄・健一(緒形直人)の好物が冷奴だからだ。
亡き両親が残した我が家は、昔ながらの一軒家である。硝子戸の小さな玄関があり、障子と襖と畳の部屋があり、細い廊下と縁側がある。居間に古いテレビがある。
兄が帰って来る。お仏飯を仏壇に供え拝んだあと、兄のご飯をよそう。風呂から上がった兄が冷めないうちに入れと言う。風呂場には木製の手桶がある。

高校を卒業した洋子は、都電で数分行ったところにある写真ラボ店で働き始める。じっと客を待つだけの退屈な仕事だ。
兄が同級生の三村(手塚とおる)を連れて来る。店の常連客だったので、思わず笑う。三人でコタツを囲み、焼酎のお湯割りをつくってやる。隣りのおばさんが醤油を借りに来る。兄たちが寝静まったあと、洗濯物にアイロンをかける。

三村が店に現れ、何時に終ると尋ねる。デートして夜遅く帰る。心配するじゃないかと兄が怒るので、しなくていいと返す。朝、止まった柱時計のねじを巻く。初めて三村とキスをする。三村の皮ジャンを羽織り、東京のあちこちを撮影して回る彼について行く。同棲を始める。帰ってこいと兄が言うので、電話を切る。
三村の姿が見えないので、街を捜す。泥酔した三村が死ぬ。

「風呂はいれ」

葬式の日、荷物を持って我が家に戻ると、兄がそう言う。湯舟の中でしばし頭を沈める。

バルサンを焚いたので、二人してパチンコへ行く。
雪の日、兄と両親の墓参りをする。中国飯店で夕食をする。電車の座席に並んで腰を下ろす。座ったまま両足を思い切り伸ばし宙に浮かす。兄が真似するので、もう一度やる。

いつもと変わらぬ東京下町の夜。門扉の鈴の音が聞こえるが、兄は帰宅しない。
  (注釈3)



今現在、東京で暮らしている人たち、あるいはその周辺で暮らしている人たちにも「東京物語」はある。
僕は大学時代の4年間だけだが、僕と同じようにかつて東京で暮らしたことのある人たち、仕事や観光などで東京を訪れたことのある人たちにも「東京物語」はある。もしかしたら訪れたことのない人たちにも将来暮らす人たちにもあるかもしれない。
おそらく外国人も含めて極めて多くの人たちの中に「東京物語」が存在するだろう。今現在生きている人たちに限ったとしても、日本のどの場所の物語よりも高い確率で存在するにちがいない。

試しに自分の物語を小津安二郎監督の作品名に託してみたらどうだろう。
「東京物語」「東京の合唱」「東京の女」「東京の宿」「東京暮色」
自分に相応しいタイトルがあるだろうか。気に食わなければ、市川準監督のように勝手につくればいい。

満洲引揚者の山田洋次監督の場合、「東京物語」を意識しつつ、父と息子の断絶と和解の話になった。和解の橋渡しをしたのは“ろうあの人”を演じた和久井映見である。原節子さんに重ね合わせるには短すぎるふれあいで無理があるが、東京でフラフラしていた息子が、山奥で独りさびしく暮らす父親が、前向きに生きる希望となった。
市川準監督の場合、東京の下町で生まれ育った兄と妹の日常を静かに描写しつつ、季節が変化すると共に少しずつ二人の間にズレが生じる話となった。二人の間に割って入るのが写真家の友人である。唐突に死んでしまうが、かつて過ごした二人の時間はもとには戻らない。次第に下町情緒が失われていくように。

いずれも東京の片隅でひっそりと暮らす若者たちの話だ。時代背景が90年代前半である。
その後の彼らの行く末を想像してみると、決して明るいとは言えない。未曾有の大不況で町工場も古本屋もバタバタと倒れているからだ。福島原発事故の影響で内部被曝の危険にさらされているからだ。
それでも新たに創作した「東京物語」で、山田洋次監督は家族を通して希望を見出そうとしている。


ちなみに「東京兄妹」では、四季折々の法明寺の境内が映し出される。その寺には鬼子母神が祭られているが、「恐れ入谷の鬼子母神」ではない。
しかしながら、タイトルに東京がつくかつかないかは別として、地方在住の映画ファンとしては、東京映画の秀作の多さに「恐れ入谷の鬼子母神」である。

2013年4月14日、三國連太郎さんが亡くなられた。ご冥福をお祈りします。


蛇足ながら、僕の「東京物語」は「MEMORIES'77」という作品だ。
主題歌は、東京で生まれ育った山下達郎の「サーカス・タウン」を使った。(公開中)
MEMORIES'77 前編MEMORIES'77 後編



注釈1、「東京物語」(監督、脚本:小津安二郎)
      日本映画 1953年製作 英題:Tokyo Story
      文部省芸術祭・芸術祭賞受賞
      ロンドン映画祭・第1位サザーランド牌
      2012年「サイト・アンド・サウンド」誌(英国映画協会)監督選出部門・第1位、批評家選出部門・第3位

      メディア:DVD
      メーカー:松竹

注釈2、「息子」(監督、脚本:山田洋次)
      日本映画 1991年製作
      原作:椎名誠「倉庫作業員」
      キネマ旬報ベストテン第1位、日本映画監督賞、主演男優賞(三國連太郎)
                    助演男優賞(永瀬正敏)、助演女優賞(和久井映見)受賞
      日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、助演女優賞受賞

      メディア:DVD
      メーカー:松竹
     
注釈3、「東京兄妹」(監督:市川準)
日本映画 1995年製作 英題:Tokyo Kyodai
ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞
芸術選奨文部大臣賞、文化庁優秀映画作品賞受賞

メディア:DVD
メーカー:ローランズ・フィルム


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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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