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2014年09月16日

「お・も・て・な・し」の心にウソはない。

クリステル滝川.jpg

 自選パロディ集サード・シーズン PARTU

「お・も・て・な・し」の心にウソはない。
 introducing 「バロン」「ユージュアル・サスペクツ」

ワールドカップでサムライ・ブルーが勝利する瞬間を見るためなら分るけれど、無愛想なIOC会長がトキオ!と口走る瞬間を見るために、多くの日本人が明け方までTVにかじりつくなんて前代未聞だった。
そしてその瞬間から約21時間後、2020東京オリンピックの実施競技としてレスリングが生き残った。

僕は近所に住む小学5年生のAくんを訪ねた。彼は全国少年少女レスリング選手権で3年連続優勝しており、今年7月に行われた大会では、対戦相手に1ポイントも奪われなかった猛者だ。
2020年に向けてさぞかし闘志を燃やしているだろうと思いきや、えらく神妙な顔をしている。
「よかったなあ。あと7年頑張ればオリンピック選手だ。嬉しくないの?」僕は陽気に尋ねた。
「総理大臣って、ウソをついてるの?」しばらく黙っていた彼がやっと口を開いた。
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、『状況はコントロールされており、東京にダメージは与えない』とか『汚染水の影響は、原発の港湾内の0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている』なんて言ってるけど、そんなのウソでしょ?」

「ウソじゃないよ。総理大臣はそう信じてるんだ」
「東電は『完全に遮断できているわけではない』とか言ってるよ」
「東電こそウソつきなんだ。今まで本当のこと言ったことないだろ。信用できるのは、亡くなった吉田所長だけだ。僕と同学年の」
「でも朝日には、『高濃度の汚染水をためていたタンクから300トンが漏れた事故では、近くの排水溝を通ってそのまま外洋へ流れ出した可能性がある』とか書いてるよ。やっぱりウソじゃないか」
「確かにその可能性はあるけど」僕はAくんの顔をまじまじと見た。「朝日新聞なんか読むの?」
「60人のIOC委員は、どうしてそのウソに気づかなかったの?」
「世界中が注目してるIOC総会の最終プレゼンテーションで、日本の総理大臣がウソをつくわけがない、と思ってるからさ」
「IOC委員って間抜けばっかしなの?」

「そうじゃないよ」僕は話の矛先を変えた。「滝川クリステルがフランス語で言ってただろ。『お・も・て・な・し』って。日本人が揃っておもてなしの心を持ってるなら、総理大臣だって持ってるわけだ。おもてなしの心を持ってるからこそ、『今までも、現在も、将来も、まったく問題ない』と約束したんだよ」
「じゃあ、僕らがおもてなしの心を持ってさえいれば、外人さんに対して『ウソも方便』ってことなの?」
「そうじゃないよ」仕方ないので、僕は彼に歩み寄ることにした。「つまり総理大臣は、責任をもって東京を安全にすると国際公約したようなものなんだよ。だから言葉通りやってくれるよ」
「7年も経てば総理大臣じゃなくなるんでしょ? そんな人の約束なんかウソに決まってるよ」

「もっと楽しく考えないかな。君だって映画を見るだろ。普段の生活で嫌なことがあっても、映画を見ると楽しくなるだろ。映画の大半がエンターテインメントだからだよ。スクリーンの上で『お・も・て・な・し』をやることがエンターテインメントなんだ」
「以前言ってたじゃない? エンターテインメントって、気持ちよくだますことだって?」
「そうだよ」
「だったら映画なんて全編ウソ八百じゃない? 同じ意味でしょ? 口から出まかせと」
僕はやけになって言った。「口から出まかせでも、おもてなしの心があればいいんだよ。おもてなしの心がありさえすれば、60人のIOC委員は信じてくれるんだ。解るだろ?」
「解んないよ」
「まあいいさ。解んないのはウザいガキだけだ。大人はみんな解ってるんだから」僕はイライラしながら独り言を言った。「まったく、ウソだウソだと抜かしやがって。何で黙ってレスリングに専念できないんだ」

ハイホー、マンハッタン坂本です。



ちびっ子レスラーのAくんが指摘したように、映画の役割の一つは、気持よくだますことである。気持よくだますために、スクリーン上にいろんな映像をでっち上げるわけだ。だがすべてがでっち上げではない。すべてが口から出まかせみたいな話とは限らない。
しかしながら、中には明らかに全編に渡って「口から出まかせ」と言える映画がある。


18世紀末のドイツ。トルコ軍に包囲された海岸沿いの町が、激しい砲撃を受ける。
戦火を逃れた劇場では、ヘンリー・ソルト一座が「ミュンヒハウゼン男爵の冒険」を上演している。
そこへ年老いた本物のバロン(ジョン・ネヴィル)が現れ、紛争の原因は私だと言って、4人の家来と共にコンスタンチノーブル(現在のイスタンブール)を訪れたときの話を始める。

トルコ皇帝から自慢のワインを振る舞われたバロンは、賭けを申し出る。これに勝るワインをウイーンから1時間で取り寄せる。負ければ打ち首に、勝てば一人の力持ちが運べるだけの宝物をもらう、と。
弾丸ランナーのバートホルド(エリック・アイドル)が時間ぎりぎりで持ち帰ったワインで、バロンは賭けに勝つ。怪力アルブレヒトが蔵にあるすべての財宝を抱え去ろうとすると、怒った皇帝の命で近衛兵が攻撃してくる。グスタヴァスが口から突風を起こし吹き飛ばす。

話半ばで、トルコ軍の砲弾が劇場に直撃する。
一座の娘サリーに助けられたバロンは、町を救う決意をし、女たちの下着を集めて気球を作る。
サリーを伴い気球に乗って月に向かったバロンは、囚われの身のバートホルドを月の王(ロビン・ウィリアムズ)から救う。エトナ山では火の神のもとでメイドをするアルブレヒト、飲み込まれた巨大な魚の腹の底ではグスタヴァスと射撃の名手アドルファスと再会する。

年老いた4人の家来を引き連れたバロンは、町を包囲するトルコ軍を攻める。
愛馬ブーケパロスにまたがったバロンが次々と敵兵を倒す。狙い撃ちした弾丸を追い抜いてバロンを守るバートホルド。老いに鞭打って突風で敵軍を吹き散らすグスタヴァス。3隻の軍船を振り回して敵陣にお見舞いするアルブレヒト。
トルコ軍は恐れおののき敗走し、バロンと家来たちが喝采を浴びながら町を行進する。
だがその直後、町の指揮官(ジョナサン・プライス)にバロンが暗殺される。町中が悲しみに包まれる。

と思いきや、それが話の結末だった。
話に勇気づけられた聴衆と共にバロンが城門へ向う。阻止する指揮官たちを押しのけ門を開くと、敗走したトルコ軍の残骸が散らばっている。
歓喜に包まれる中、サリーがバロンに向かって言う。

「作り話じゃなかったのね」

   (注釈1)



カリフォルニア州サンペドロ港で貨物船が爆発。銃撃戦で27名が死に、生き残ったのは、全身火傷を負ったハンガリー人と左半身不随のヴァーバル・キント。
詐欺師のヴァーバル(ケヴィン・スペイシー)は、サンペドロ警察に連行され取調べを受けるが、2時間後に釈放が決まる。
何とか事件を解決したい関税局のクイヤン捜査官(チャズ・パルミンテリ)は、レイビン刑事の部屋に足止めし、彼を尋問する。

もと汚職警官のディーン・キートン(ガブリエル・バーン)とマクマナスとフェンスターとホックニーの前科者4人と知り合ったのは、6週間前にニューヨークで起こった事件の容疑者として面通しされたときで、ヴァーバルは彼らと共謀して汚職警官によるタクシーサービスを襲撃した事件から話し出す。
ブツをさばくためにLAの故買屋レッドフットと取り引きしたあと、新たなヤマを依頼される。ホテルの駐車場で襲撃するが、宝石のはずがヘロインが出てくる。故買屋によると、弁護士のコバヤシが持ってきたヤマだという。

そこへ、瀕死のハンガリー人から聞き取りをしていたFBI捜査官がクイヤンを訪ねて来、ハンガリー人が恐怖におののきながら叫んだ伝説のギャングの名前を告げる。

カイザー・ソゼって誰なんだ、とクイヤンがヴァーバルを問い詰める。
仕方なく彼は白状する。5人がコバヤシ(ピート・ポスルスウェイト)と会ったとき、彼のボスがカイザー・ソゼだと知ったという。そして9100万ドルの麻薬の取り引きをする貨物船の爆破を命令される。全員がソゼに借りがあり、それを清算するために断ることができなかったからだ。

「ソゼがすごいのは、自分の存在を謎にした事だ」

ヴァーバルは、ヤクの売人だったトルコ時代の伝説を語る。
だがソゼの存在を否定するキートンは、共謀してコバヤシを消そうとするが、キートンの恋人イーディを人質にとられ、貨物船襲撃を決行するハメになったのだ。

キートンこそカイザー・ソゼにちがいないと確信するクイヤンは、執拗にヴァーバルを追い詰める。音を上げた彼は、すべてはキートンが指図したと白状する。
そして命を狙われてもサツの保護だけは拒否し、署を出ていく。

キートンの正体が分かり満足そうにコーヒーを飲むクイヤン。ふと部屋の掲示板に目をやると、ヴァーバルの話に登場した名前が記されている。ヴァーバルが語った内容は、掲示板の情報から巧みにでっち上げたものだった。慌ててクイヤンは部屋を飛び出していく。
そこへ、病院からカイザー・ソゼの似顔絵がファックスされてくる。
   (注釈2)



どんでん返しが凄い映画と言えば、ホラー・サスペンスにジャンル分けされる作品が多いけれど、人間ドラマとして娯楽映画として第一級の作品と言えば、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが詐欺師仲間と共に大がかりなトリックを仕掛ける「スティング」(米アカデミー賞作品賞など全7部門受賞)ではないだろうか。
「スティング」の原題であるThe STINGは俗語で「だます」という意味がある。おまけにテーマ曲は、ラグタイム・ピアニストのスコット・ジョプリンが1902年に作曲し、アカデミー賞音楽賞を受賞したマーヴィン・ハムリッシュが編曲した「ジ・エンターテイナー」である。
The ENTERTAINERをあっさり訳せば「芸人」だが、広い意味で「おもてなし」をする人、(客を)楽しませる人となる。

「ジ・エンターテイナー」(作曲:スコット・ジョプリン)



優れた娯楽映画とは、どんなに凄いどんでん返しがあっても、その結末が解っていたとしても、繰り返し見たくなるような作品ではないかと思う。
その点で、料金を払って映画館に入った観客の期待を裏切らない「お・も・て・な・し」の心がこもった映画を制作することは、かなりハードだ。
同様に、遠路はるばる東京までオリンピックを観戦しに来た外人さんの期待を裏切らない「お・も・て・な・し」の心がこもった親切な応対をすることも、口で言うほど楽ではない。
そのためには、競技会場の増改築やインフラ整備やテロ防衛はもちろん、世界中が懸念している汚染水の影響など多くの課題を、7年間でクリアしなければならない。

IOC総会の最終プレゼンテーションで世界中に約束したことを、2020東京オリンピックまでに解決しなければ、日本人はウソつきだと言われるにちがいない。
優れた娯楽映画のように、まんまと観客を騙したとしても、カタルシスを伴うどんでん返しなら、むしろ賞賛されるけれど、東京オリンピックはそんなわけにいかない。許されるのは、開会式のアトラクションとフェアプレーの中で起きるどんでん返しだけだ。




注釈1、「バロン」(監督:テリー・ギリアム)
     イギリス・西ドイツ映画 1989年製作 原題:The Adventures of Baron Munchausen

     メーカー:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
     メディア:Blu−ray

注釈2、「ユージュアル・サスペクツ」(監督:ブライアン・シンガー)
     アメリカ映画 1995年製作 原題:The Usual Suspects
     米アカデミー賞オリジナル脚本賞、助演男優賞(ケヴィン・スペイシー)受賞
     英アカデミー賞オリジナル脚本賞、編集賞受賞

     メーカー:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
     メディア:Blu−ray


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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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