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2014年11月25日

みんながリックの店にやってくる。

カサブランカ2.jpg

みんながリックの店にやってくる。
introducing 「THE 有頂天ホテル」「櫻の園」

ファンならご存知だと思うが、映画「カサブランカ」の叩き台となったのは、ブロードウェイに辿り着く途中でぽしゃってしまった舞台劇「みんながリックの店にやってくる」である。
原案でも原作でもなく叩き台という言い方をしたのは、カサブランカというエキゾチックな背景のもとで、主人公のリックがナイトクラブを経営するという設定だけが残ったからだ。
その設定をもとに、シナリオ・ライターのジュリアス&フィリップ・エプスタイン兄弟が映画用の登場人物と事件を思いつき、引き継いだハワード・コッチが彼らのアイデアをサスペンス仕立てにふくらませ、割り込んだマイケル・カーティス監督がロマンス色の強いドラマに仕上げたわけだ。

みんながリックの店にやってくるのは、ある特別な出国ビザの取り引きがあるからだ。
第2次世界大戦の最中、ドイツに支配されたヨーロッパから脱出するには、ポルトガルのリスボンへ行き、自由の国アメリカへ渡航する方法があったが、誰もが直接行けるわけではなかった。
そこで出現したがフランス領モロッコのカサブランカから飛行機でリスボンへ行く亡命ルートで、金かコネか幸運に恵まれた人たちだけが出国ビザを手に入れられた。

ドイツの連絡員を列車の中で殺害して、検問もフリーパスとなるドイツ軍発行の通行証を手に入れたウガーテは、それを売って高飛びするため、リックの店カフェ・アメリカンにやって来、1時間ばかり預かって欲しいと頼み込む。
受け取ったリック(ハンフリー・ボガート)は、サムのピアノの中にそれを隠す。
フランス・ヴィシー政府から任命された警察署長ルイ・ルノー大尉(クロード・レインズ)は、ナチス・ドイツのストラッサー少佐をリックの店に招待し、彼の目の前でウガーテを逮捕する。
世の中には星の数ほど酒場があるのに、よりによってリックの店にやってきたイルザ(イングリット・バーグマン)は、パリの恋人だったリックと再会する。そして一緒に来た反ナチ運動の指導者である夫のヴィクター・ラズロ(ポール・ヘンリード)を出国させるため、通行証を譲ってくれと頼み込む。
にべもなくリックは断るが、土壇場で彼女に「君の瞳に乾杯」と言ってラズロに通行証を手渡す。
   (注釈1)

「カサブランカ」のようなサスペンス映画や冒険活劇では、あるモノをめぐって争奪戦が起こり、それがやたらと人から人へと渡ることがある。
だがコメディや青春映画では、邪魔物のようにたらい回しにされる。

ハイホー、マンハッタン坂本です。


大晦日のホテル・アヴァンティ、夜10時過ぎ。ベルボーイの只野憲二(香取慎吾)のささやかな送別会が広間で行われる。プロを目指して6年間路上ライブをやってきたが、実家に帰ることにしたからだ。
28歳ならまだチャンスがある、と副支配人の新堂(役所広司)が引き止める。劇団の舞台監督をやったことがあり、夢をあきらめてほしくないからだ。
憲二は、ギブソンのギターを客室係の野間睦子(堀内敬子)へ、バンダナをアシスタント・マネージャーへ、幸運の人形を新堂へ無理やりプレゼントする。

新堂は、15年ぶりに別れた妻の堀田由美(原田美枝子)と再会する。ホテルの名札をつけたまま、相変わらず舞台の仕事をやっており、ステージ・ディレクター(舞台監督)のマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたと思わず見栄をはる。そして幸運のお守りだと言って彼女に人形を押しつける。
その人形がスタグ(雄ジカ)・ディレクターの授賞式に来た夫の衛(角野卓造)へ、さらに出入りを禁止されたコールガールのヨーコ(篠原涼子)へ渡る。彼女は、裸でクネクネダンスする堀田衛をケータイの待ち受け画面で見るのが楽しみである。

人生最悪の大晦日を迎えた汚職国会議員の武藤田勝利(佐藤浩市)は、嗅ぎつけたマスコミから逃れるため、ホテルを脱出しようとする。そのときヨーコと出会い、意気投合して最上階のレストランへ行く。ヨーコから裸のクネクネダンスを見せられ、幸せになれるらしいと人形を受け取る。
だが地獄を見ることは間違いない。バリモア・スイートに立てこもり、拳銃を手にする。すると隣りのガルボ・スイートから聞こえる歌声がうるさい。有名演歌歌手に売り込むため、憲二がギターをかきならしながら自作を歌っていたのだ。
自殺し損なった武藤田は、感謝の意を込めて憲二に抱きつき、無理やり人形を手渡す。

幸運の人形をいとおしそうに見つめながら憲二がチャペルへやってくる。何故かバンダナをまとったアヒルが現れ、たまたま居合わせた睦子がギターを返しに来る。
謙二は、舞い戻った路上ライブ3点セットを身につけ、再出発の雄叫びを上げる。

一方、真相暴露のため記者会見を行う武藤田に向かって、元恋人でシングル・マザーでホテルの客室係の竹本ハナ(松たか子)が言い放つ。

「カッコ悪くてもいいじゃない、生き残る道を選びなさい。そしてあなたは、自分の思う通りに生きるの」
   (注釈2)



私立櫻華学園の創立記念日は、毎年のように桜が満開となり、毎年のように演劇部がチエーホフの「櫻の園」を上演する。
その日、舞台監督の城丸香織(宮澤美保)は、ボーイフレンドの島田と部室で朝を迎える。芝居の粗筋を話していると、おもむろに彼が煙草とライターを取り出す。彼女は慌ててそれを奪い取りソファの下に隠す。

8時近く。裏口から島田を見送った直後、部長の志水由布子(中島ひろ子)がパーマ姿でやってくる。校則が厳しい女子高に対するささやかな反抗である。その日18歳の誕生日を迎えたせいだ。
城丸が飲み物を買いに出たあと、志水は煙草とライターを発見する。

次々と部員が集まってくる。昨夜連絡網で伝えられた杉山事件が大きく話題となる。3年生の部員が喫茶店で他校の生徒と煙草を吸って補導されたのだ。
主役を演じる倉田知世子(白島靖代)と城丸が職員室から戻ってきて、上演が中止になるかもしれないと言い出す。部員たちの間に次第に不安が広がる。
校長室でしぼられていた杉山紀子(つみきみほ)が現れ、深々と頭を下げる。

進路指導室に志水と杉山が呼び出される。
喉が弱いので禁煙していた、と杉山が打ち明ける。中止になったら暴動を起こす、と志水が威勢のいいことを言う。
部室で拾ったと煙草をポケットから出したので、見つかったらホントに中止になると杉山が取り上げる。
倉田さんのこと好きなんでしょ?とあっさり尋ねると、志水がうろたえる。

校舎の屋上へ行き、発声とストレッチをしていた出演者たちに上演を伝える。顧問の里美先生が頑張ったからだ。
遅れて柔軟をやったあと再び二人だけとなり、志水が倉田への想いを素直に告白する。密かに志水に想いを寄せていた杉山は、さすがにショックである。

それぞれの衣装をまといメイクを終えた出演者たちが、そそくさと部室をあとにする。志水と倉田だけとなる。中止になればいいのに、と女主人を演じる自信のなさを口にしていた倉田を志水が元気づける。倉田が幸福感を吐露するラネフスカヤの独白を始める。志水が口をそろえると、コーラスのようだ。
部室の横の日だまりへ行き、記念写真を撮る。

「私、倉田さんのことが好き。……ダメ?」
「う〜ん、ダメじゃない」
「倉田さん好きよ。大好き」
「嬉しい。もっと言って」


至福に満ちた二人の会話を、窓際に隠れた杉山が聞き惚れている。指にはさんだ煙草から灰が落ちる。
幕が上がると城丸が呼びにくる。日だまりに背を向けて杉山が二人を呼ぶ。一本もらっちゃったよ、と煙草とライターを彼女に返す。

開幕を待つ舞台のそでで、みんなが笑顔でバースデイ・ソングを歌う。志水さん、今日誕生日じゃない?と杉山がさらっと言ったからだ。
   (注釈3)



「実は、『カサブランカ』のセリフを思い出しましてね。最後にボガートがクロード・レインズにこう言うんですよ。
――ルイ、これが美しい友情の始まりだな」
「あなたはちょっとボガートに似てますね」
「気がつきましたか」


これは、ディレクターズ・カット版でも復活しなかった「エクソシスト」のラスト・シーンの会話である。
始めに話しかけるのは、映画監督の不可解な転落死事件を捜査する殺人課のキンダーマン警部補で、かなりの映画ファンである彼は、悪霊に取り憑かれた少女リーガンの母親で映画スターのクリス・マクニール(エレン・バースティン)に事情聴取をしたとき、彼女にサインを求めたほどである。
そして機嫌をとるようにキンダーマンが話しかける相手は、映画好きのダイアー神父で、彼はイエズス会士のメリン神父(マックス・フォン・シドー)と共に悪魔祓いを行ったカラス神父の親友である。

原作小説には存在するラスト・シーンの会話が象徴するように「エクソシスト」には、本筋からそれたところで映画に関する会話や映画の撮影風景が出てくる。
それはとりもなおさず、原作を書き、映画を製作し、結果的に米アカデミー賞脚色賞まで受賞したウィリアム・ピーター・ブラッティがシナリオ・ライターとして名をなした映画人だったからだ。
   (注釈4)

映画ファンならお気づきだと思うが、「THE 有頂天ホテル」も「櫻の園」もグランド・ホテル形式である。一つの場所を舞台に、複数人々のドラマを並行して描いており、1932年に制作された「グランド・ホテル」に由来するやり方だ。
舞台人であり映画人である三谷幸喜は、映画の中で臆面もなく「グランド・ホテル」のポスターを登場させており、出演者の名前を冠したスイート・ルームまでつくった。

ついでながら、ビリー・ワイルダー監督のファンである三谷は、舞台劇が原作の「お熱い夜をあなたに」の原題であるAVANTI!をホテル名に使った。
この映画もホテルが舞台で、ボーイがイタリア語で「ペルメッソ」とドアをノックすると、客が「アヴァンティ」と言う。「いいですか」「お入んなさい」という意味で、仲よくなった男女の間でも使われる。


そんなわけで、
みんながホテル・アヴァンティにやってくるのは、「お・も・て・な・し」をするホテルマンが「お帰りなさいませ」と言って出迎えてくれるからだ。
みんなが演劇部の部室にやってくるのは、三谷版「桜の園」の稽古を見るためではなく、少女たちの心のゆらぎときらめきの瞬間を垣間見たいからだ。
みんながリックの店カフェ・アメリカンにやってくるのは、サムが歌う「時の過ぎ行くままに」を聴きながら、洒落た会話をなぞってみたいからだ。

Play it Sam,Play AS TIME GOES BY



みんながシネマ・ワンダーランドにやってくるのは、どんな映画が、どんな小噺が飛び出してくるか予想がつかないけれど、とりあえず面白そうだからだ。
願わくば、そんな風に思われるシネワンでありたい。


注釈1、「カサブランカ」(監督:マイケル・カーティス)
     アメリカ映画 1942年制作 原題:Casablanca
     主題歌:「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」
     米アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞受賞

     メーカー:ワーナーホームビデオ
     メディア:Blu−ray

注釈2、「THE 有頂天ホテル」(監督、脚本:三谷幸喜)
     日本映画 2006年制作 英題:The Wow−Choten Hotel

     メーカー:東宝
     メディア:DVD

注釈3、「櫻の園」(監督:中原俊)
     日本映画 1990年制作 英題:The Cherry Orchard
     キネマ旬報ベストテン第1位、日本映画監督賞、脚本賞(じんのひろあき)受賞
     日本アカデミー賞編集賞受賞
     毎日映画コンクール日本映画優秀賞、女優助演賞(つみきみほ)受賞

     メーカー:オデッサ・エンタテインメント
     メディア:DVD

注釈4、「エクソシスト」(監督:ウィリアム・フリードキン)
     アメリカ映画 1973年制作 原題:The Exorcist
     米アカデミー賞脚色賞、音響賞受賞
     ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)作品賞、監督賞受賞
     ディレクターズ・カット版 2000年公開 原題:The Exorcist:The Version You've Never Seen

     メーカー:ワーナーホームビデオ
     メディア:Blu−ray

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posted by マンハッタン坂本 at 00:00 | Comment(0) | 映画全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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